水が生命を蝕む!!
取材・文/原プロジェクト
私たちがお茶を飲む、ミルクをつくる、お風呂に入るなど、毎日使っている水のなかには、大量の発ガン物質や遺伝子に障害を与える変異原性物質が含まれている。そしてその量は今後ますます増加しそうである。このことは、ひとつの事実である。
水がなければ生きていけない私たちにとって、これは何を意味するのだろうか。
はっきりしていることは、私たちばかりでなく、私たちの子ども、そしてそのまた子どもも危険に晒されているということだ。
いま何をなすべきか。そのためにも、もっともっと水を知る。
安心を育んだ塩素が元凶
“生水はお腹をこわすので飲まないように”という生活の知恵が生きていたのは、いまから50年以上も昔の話。現在では、塩素による殺菌が徹底しているためにそんな心配はほとんどない。ところが、この塩素殺菌こそが、さまざまな問題の元凶なのである。
★究極のリサイクル品“水”がいま悪循環に陥っている
“水の惑星”と言われる地球。ただし、その水はほとんどが海水として存在している。その割合は97%。そして南極や北極の氷として存在する水が2%。ということは、私たちが生命を維持するために飲む水、洗濯や入浴などに使う水、川の水などは、わずかに1%だ。もちろん私たち人類だけでなく、他の動物や植物など、すべての生命がその1%の水を分けあっているのである。
そして、そのわずかな1%の水も何もないところから湧き出して来るわけではない。一度水がどこから誕生するのか考えて欲しい。
蛇口をひねれば、必ず出て来る水。この水は通常浄水場から各家庭に送られる。浄水場では、地下水や川の水を原水としているが、そのもとは、雨や雪である。雨や雪は、地上や海の水分が蒸発し、雲となりその粒が落ちてきたものである。こうして水は、地球という惑星の中で、循環を繰り返して来た。この循環によって私たちは生命を育んでいるのである。
しかし、いまこの循環システムに危機が訪れている。それはとりも直さず、生命の危機なのである。私たちは、かつて使用後の水を川や大地に返していた。川や大地が、汚れを浄化する能力を持っているからだ。ところが、その浄化能力を大幅に上回る汚れを私たちは排出してしまっている。人口の増加による汚れの量的拡大も当然のことながら、自然界には存在し得ない化学物質も排出してしまった。直接的に水に混ぜるだけでなく、工場や車からの排気という形でも汚れを撒き散らし、それが雨と一緒になり酸性雨という公害も生み出している。
さらに言うならば、森林を伐採し、水の保存・供給調節機能を自らの手で破壊してしまった。“ダムがその代わりをするからいいではないか”と考えるのは、自 然に対してあまりに無知である。森林の木々は、根から窒素などの養分を吸いあげ、水質を良好に保つ役割も担っているのである。つまり森林がなければ、大地の中のそうした養分が川へ流出し、藻などの異常発生を招いてしまう。また海へ流れプランクトンの発育を異常に促進し、大量の魚を殺したりもするのである。
また、都市部では、大地をアスファルトで覆い、大地の浄化能力を用いず、下水処理場に頼っている。その結果として地下水の減少を招き、近くの湧水が枯渇し、遠くのダムに都市の水源を頼らなければならなくなっている。本来自然の浄化作用によって循環し使われていた水は、いまそのサイクルが人間の手によって、大きく変えられてしまった。むろん昔のような生活に戻る必要もなく、下水処理場が悪いということはない。現実に、魚の棲めなくなった河川に魚が戻ってきたのは、下水処理の技術に負うところが多い。問題は、使い捨て文化・生活をそのままに、汚れたら後で浄化すればいいというような安易な姿勢である。
自然界の持つ循環浄化機能とともに、人間を含めた生態系は存在しているということを考え、それに矛盾しない生き方をいまこそ実践しなければならない。人間の知恵はそのためにあるはずだ。生命を育んだ水によって、しっぺ返しが始まっているのだから。
★水道水への不信感が充満している
自然環境の悪化とともに、水の循環システムもその変容を迫られ、水そのものも変化している。蛇口、に口をつけ、ゴクゴクと喉を鳴らしたのは、記憶の彼方へと走り去り、多くの人はボトル詰めのミネラルウォーターに手を伸ばし始めている。日本ミネラルウォーター協会の調べでは、農水省の『ミネラルウォーター類』に該当する商品としての水の生産量が、急増しているという。90年度は約15万キロリットル、前年比5割増だ。そして外国産ミネラルウォーターの輸入量も、80年にはわずか33キロリットルだったものが、90年には約2万5千キロリットルと10年間で実に800倍もの伸びを示している。
確かにグルメブームで、おいしい水に対する需要は増えていると思われるが、単にそれだけで、いわゆるミネラルウォーターの消費が急増するとは思えない。多分にマスコミお得意の“オシャレ志向”も、その消費に一役買っている。しかし、それを考慮したとしても、まだまだ水道水の2000倍の値段とされるミネラルウォーターの消費を支える根拠としては希薄である。なにしろ、『日本人とユダヤ人』の著者イザヤ・ベンダサンが同書で指摘しているように“日本人は、安全と水は無料で手に入ると思いこんでいる”のであるから。
では、なぜこれほどまでに、ミネラルウォーターのブームは拡大し続けているのだろうか。それは、とりもなおさず、水に対する不信感の裏返しとして存在しているのである。安くてまずく、危険な水道水より、高くでも安心のできるミネラルウオーターを選びたいということなのだ。
しかしながら、水道水に対する不信感は、それほど明確なものではない。“なんとなく危いんじゃないか”というのが、大半の人の水道水へのイメージである。そのイメージをよりはっきりとさせているのが、味覚よりも匂いである。カビ臭のする地域はある程度限定されるが、いわゆるカルキ臭(塩素の匂い)は、一般的であり、また塩素の殺菌効果についてもよく知られているところである。つまり、塩素の効果については認めながらもその臭いはなんとかならないかと思っているのだ。
そして、塩素臭が強くなればなるほど水が汚れているということは実感される。
地下水を飲んでいる地域はともかく、河川を水源としているところでは、その汚れ具合を目のあたりにすることができるので、塩素に対する許容意識が高まるのも当然のことのようだ。
しかし、その塩素が発ガン物質“トリハロメタン”に代表される危険な物質を生んでいる。そのことを明確にしていきたい。
殺菌剤“塩素”は人体に無害か!?
水道水に塩素が含まれていることは、誰でも知っている。水道水にまきれ込む各種細菌を殺すために。そしてその塩素のおかげで、中和剤を入れなければ金魚が飼えないことも。だから、水道水をそのまま飲むことに抵抗を感じる。
★塩素の安全性に関するデータはどこにあるのだろう
いわゆる伝染病の拡大を抑えるために塩素消毒は日本ばかりでなく、世界各地で行われている。それは、塩素の殺菌効果が非常に高いためである。ボツリヌス菌、破傷風菌などは、環境が悪化すると固い細胞膜で包まれた「芽胞」を形成する。この芽胞は100℃の沸騰した熱湯で30分煮ても死なないのだが、塩素では簡単に殺すことができるという。A型肝炎やポリオのようなウィルスも塩素は、しっかりと殺してくれる。わが国の水質基準は、下の表に示した通りであるが、その中の細菌の規制を担っているのが残留塩素である。その濃度は、水道法施行規則・第十六条によって蛇口からでた時点で0.1ppm(1?の水に0.1mg含まれる濃さ)以上と決められている。なぜ0.1ppm以上なのかというと、それ未満では殺菌力が弱くなるからだ。
しかし、殺菌力の強い物質なのに、以上というような基準では不安が残る。少なくとも0.1ppm以上10ppm未満未満というような域値があってもいいのではないだろうか。ちなみに米国では、給水所から蛇口までの一番時間(分)のかかるところを基準として濃度が決定される。殺菌力の強い塩素は、人体に無害なのだろうか。厚生省では心配ないと言う。ところが、信じられないことにその安全性を示すデータはないのだ。塩素自体は、揮発性があるので、水をくみおきしておけば空中へ飛ぶ。また沸騰させることによって意識的に飛ばすこともできる。しかし、それは安全性とは別問題である。
また水の専門家・研究者の何人かに問い合わせたが、塩素自体の調査・研究データは持ち合わせてないという。おそらく危険性の高い塩素化合物は研究対象となっても、塩素自体は流行らないということなのだろうか。
とはいうものの、塩素ガスは、労働安全法によって職場の空気中の濃度は1ppm以下と規制対象になっているのだ。なにしろ、この塩素ガスはドイツ軍が第一次世界大戦で毒ガス兵器として使用したことでも有名。一般的に空気中に3〜6ppmあると目や鼻・喉にやけつくような痛みを感じ、14ppmほどでは30分から1時間で人間が死亡するという危険なものなのである。
★塩素は身の回りにあふれている
塩素消毒が徹底して行われるようになったのは、それほど古い話ではない。第二次世界大戦後、GHQの指導によるものだ。おそらく占領下のアメリカ人は、ボロをまとった日本人に対して、病気を伝染させられては大変だと感じていたに違いない。また前線で汚い水に塩素を入れて飲んでいたという経験も活かされたのかもしれない。
一方わが国も当時は豊かな国アメリカへの強い憧憬もあって、アメリカの指導を簡単に受け入れてしまったようだ。恐ろしい伝染病も塩素をどんどん入れれば大丈夫とばかりに。それが0.1ppm以上という表現に投影されているのだろう。シラミ退治にとDDTを喜んで自らの身体にふりかけたのも同様の背景があるのではないだろうか。
そしてこのDDTも有機塩素化合物である。その他BHCやダイオキシンなども同様の化合物である。こう見て来ると、塩素が有機物と結びついたものは、人間や虫、さらに細菌などを殺すために作られたものであることがはっきりする。そのうえ塩素というのは、かなり廉価で取り扱いも簡単。だから私たちの身の回りにも塩素はあふれている。塩素系と表示されている殺菌・漂白剤(酸素系ではない)、パイプクリーナー、カビ取り剤など、各家庭に必ず1本以上あると思われる。その製品の注意書を読んで欲しい。塩酸系の洗剤と混ぜると塩素ガスが発生して危険なので、絶対に混ぜて使うなということが書かれているはず。もちろん塩酸系の洗剤(トイレ用のものが多い)には、塩素系と混ぜるなと書いてある。現実問題として、3年程以前に主婦の死亡事故が起こっている。
それから私たちの身の回りで大量の塩素を消費しているところ、それがプールである。プールの水質基準における残留塩素の濃度は0.4ppm以上。塩素が0.4ppmだけ含まれる水は、人によってはほとんど匂わない。カルキ臭は、塩素がアンモニアなどと結びついてより深くなる。プールでもカルキ臭の強いところと、あまり感じないところがあるが、それは塩素の量だけでなく、汚れにも関係するようだ。プールというのは、たくさんの人が次々と汚れを持ち込むために、0.4ppmという飲み水より濃い塩素濃度が決められている。汚れがひどければ(プールの浄化能力が低ければ)塩素はすぐにその汚れと結びついてしまい、0.4ppmの濃さを維持できない。そこで次々と塩素を投入しなければならないという悪循環
に陥ってしまう。そうなればプールは濁ってくるし、目や鼻が刺激される。
あえて言うならば、私たちは、水道水のカルキ臭にこれは「水質基準違反」ではないだろうかと思いつつ飲んでいる。“臭気や味は異常でないこと”となっているのだから。でもそれより安全だという明確な根拠をなぜ示さないのだろうか。
★塩素の中で働く人はその怖さを知っている
日常カルキ臭い水を飲んでいたとしても、それによってすぐ身体に何か異常をきたすものではない。そのことが塩素自体に対する疑念を表面化させない理由である。赤痢やコレラといった伝染病の方が怖いから我慢してしまおうということだ。
しかし、スイミングスクールのインストラクターは、水道水よりずっと塩素濃度の高い水の中で仕事をしているわけで、その害を受けているはずだ。
「私はフリーなので、いろいろなプールに行きますが、ひどいところでは、一日で髪がまっ白になったこともありました」
プールからあがるときには、しっかりとプールの水を洗い涜すというフリーのインストラクター白石希さん。私たちは、家庭用の漂白剤として、次亜塩素酸ナトリウム製剤を使っている。そう、塩素濃度が高いプールは、漂白剤の中で泳いでいるようなものだ。
「私たちは、塩素焼けと呼んでいるんですが、身体中にブツブツと発疹のようなものができることも……」
本当に、塩素は大丈夫なのだろうか。
塩素に頼らなければならない -浄水場から水道水を見つめる-
水道水がまずいと言われるようになって、だいぶ時間が経つ。まずさの原因は、原水そのものの汚れによる。よくあれだけ汚れた水を飲める状態にまでできるものだと思われるほどひどい原水もある。そこで、朝霞浄水場にその浄水システムを見ることにする。
★浄水のためには広大な土地を必要とする
1日に最大170万uの浄化能力のある朝霞浄水場は、東京の品川・大田区、武蔵野・三鷹市の大部分への給水を担当している。その他町田市などの他地域へも一部給水し、東京都の全浄水場の約4分の1に相当する。この朝霞浄水場の敷地面積は、約6万9千坪。原水となる川の水(荒川の秋ヶ瀬取水堰に取水口がある)の汚れの凝集沈殿、ろ過に用いる池が敷地の大半を占めている。
この朝霞浄水場が稼動し始めたのは1966年(昭和41年)。いわゆる東京オリンピック以降の高度経済成長の波により、東京への一極集中で水需要が急上昇したためでもある。まさに膨大な水を東京に送らなければならなかったのである。
さて浄水のシステムであるが、原理的にはそれほど難しいわけではない。原水中の細かな土やゴミなどを沈殿させ、その上澄みを砂層を通過させてろ過するというだけのことである。もちろんその後塩素消毒をして各家庭へ給水される。現在大きな問題となっているのは、このシステムのうちろ過方法。朝霞浄水場では“急速ろ過”を採用している。ろ過のための砂や砂利の層(両方で80cmの厚さ)を1日につき150mの速さで水が流れ落ちる。緩速ろ過(玉石、砂利、砂の層をしきつめ、砂層の表面に微生物の働きでできた膜によってろ過する方法。自然の浄化機能を応用している。ろ過速度は1日に4〜5m)に比べて、浄水用地が狭くて済み、大量の水を浄化するのには便利である。しかし、原水中のアンモニア性窒素、鉄分などをろ過前に処理することが必要になる。その酸化剤として塩素が使われている。消毒剤としてではない。その結果として、鉄分はとれるが、有機物と結びつき問題のある有機塩素化合物をつくってしまうのだ。′
★安全性においしさも考慮され始めた
浄水場から給水される水は、水道法などによって厳しい規制を受けている。その発想は、“水道水は、安全で、廉価で、そして豊富である”に集約される。したがって、決して給水がストップしないように、また危険な物質が混入しないように24時間の監視体制が組まれている。話を伺った同浄水場の塩谷勝技術課長も、休日といえども万が一に備えポケットベルを携帯しているという。同課長に今日のナチュラルウォーターブームについて感想を求めた。
「水の浄化に携わっている者としては、正直いって苦々しい気分です。水道水も2〜3分沸騰させて、その後冷して飲めばほとんどミネラルウォーターとかわりませんよ。でもオゾン処理(オゾンの酸化力を用いて塩素の代わりに殺菌などを行うもの。東京では、金町浄水場でそのための施設を建造中)などの高度浄水処理は検討していますが……。ただ水道水というのは、簡単に値上げするわけにもいきませんし」
厚生省の「おいしい水研究会」によって“おいしい水の水質要件”がかつて発表されたが、それによると、
○蒸発残留物 30〜200mg/L
○硬度 10〜100mg/L
○遊離炭酸 3〜30mg/L
○過マンガン酸カリウム消費量 3mg/L以下
○臭気度 3以下
○残留塩素 0・4mg/L以下
○水温 最高20℃以下
となっている。
浄水場としては、この基準に近づけたいという思いがあるに違いない。ちなみに、朝霞浄水場の場合給水ポンプに送られる浄水における残留塩素濃度は、0.9ppm程度だという。それで、蛇口での0.1ppm以上という濃度が保たれる。
塩素が作る水道水からの発ガン率は交通事故死の2倍!?
★塩素が発ガン物質を必然化
水道水に発ガン物質が含まれているということは、かなり知られている。その発ガン物質はどんなプロセスでつくられるのだろうか。はっきりしているのは、有機塩素化合物であるという点。そして、分かっている部分の方が圧倒的に少ない。
水道水に発ガン物質が含まれているというのは、1974年、アメリカの環境防衛基金(USEDF)のロバート・ハリス水質部長が指摘したことに始まった。「飲み水は安全か」と題されたそのレポートは、ニューオリンズ市のガン死者に関する疫学調査報告書である。ニューオリンズ市は、ミシシッピー川の最下流にあり、上流各地の生活排水、し尿、工場排水などの汚染物質を含む同川の水を原水として飲んでいる地域であった。もちろん塩素処理によって浄化された水である。状況としては、わが国の大きな川の下流に位置している東京や大阪などの大都市と酷似している。そのニューオリンズ市のガン死者は、地下水を水源として飲んでいる他都市より非常に多いという結果がでたのである。
この報告により、米国環境保護庁(USEPA)はニューオリンズ市の水道水を調査した。その分析結果として、82種類の有機化合物が確認され、中でもトリハロメタンのひとつであるクロロホルムが高濃度で含まれていることが判明したのである。その後、全米各地の水道水が調査された結果、塩素処理をされた水道水には、すべてトリハロメタンが含まれていることが確認されたのである。
つまり塩素処理をすると、どうしてもトリハロメタンという発ガン物質が生まれてしまうということなのだ。このトリハロメタンという物質はどんなものなのだろう。『遺伝子を撃つ水道水』(北斗出版)という著書のある神戸大学の讃岐田訓講師に簡単に説明してもらった。
「ドブ川などで、プクプクと泡が湧きあがっていることがありますが、それがメタン。とても簡単な分子で、炭素が中心にあって4本の手を出し、それぞれが水素ひとつと結びついているんです。これがハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、アスタチンの5つの元素)と結びついたものがトリハロメタンです。水道水中から発見されるもののほとんどが塩素だけと結びついたクロロホルムです。他に、ジブロモクロロメタン、ブロモジクロロメタン、ブロモホルムがあり、この4種類の物質を総称してトリハロメタンと呼んでいるわけです」
この4種類の物質は、ともに発ガン性のあることがわかっている。塩素自体への不信感には明確な答がないが、発ガン性は、はっきりしているのだ。
★トリハロメタンの危険性は高い
アメリカにおいて、トリハロメタンの規制が始まったのは1979年。水道水中の総トリハロメタン濃度の許容値を0.1ppmに定めた。わが国も1981年に厚生省の水道環境部長通知によって、当面の制御目標値を年間平均値で0.1ppm以下にするよう規制されている。この規制値の中で、年平均というのが気になるところである。絶えず0.1ppm以下ということではないからである。つまり規制値を超える濃度の水を飲む可能性もあるということだ。
ではこの規制値における発ガンリスクはどのくらいになるのだろうか。
「トリハロメタンが0.1ppmの濃さで含まれている水を、1日に2?ずつ一生涯飲み続けたときの発ガン確率は10万人に4人とされています。だから良いということはないんですね。発ガンに対する安全濃度というのはゼロでなくではならないわけです。とくに水道水は、毎日飲まなければならない、危いからやめておこうというわけにはいかないんです」
と讃岐田講師。
この10万人に4人という危険性は、人によって多いとも少ないとも感じるだろう。身近な人をガンで失ったことのある人は、その4人に自分が入ってしまうのではないかと思い、別の人は“自分は99996人に入っている”と安心するのではないだろうか。
「ガンというのは、人間の細胞の中にあるガン遺伝子やガン抑制遺伝子がなんらかの原因で、突然変異や染色体損傷を受けることによって、正常な増殖機能のコントロールがきかなくなってしまったために発生するんです。人間の体は、100兆近い細胞で構成されています。そのひとつひとつが、ガン化の対象になっているんです」
そして、讃岐田講師は「10万人に4人というのは、あくまでもトリハロメタンだけの発ガン確率なんです。水道水いんは、有機塩素化合物がトリハロメタンの数倍含まれています。そしてその発ガン性については、まったく判っていないのです。大胆に言えば、水道水の有機塩素化合物による発ガン確率は10万人に20人くらいになるかもしれません。わが国の最近の年間のガン死者は10万人に200人程度と言われています。このうち消化器系、泌尿器系のガンが約半数。したがって、これらのガン死者の5分の1が水道水を飲んだために死んだかもしれません」と言葉をつなぐ。
ちなみにわが国のガンによる死者数は、1989年は、212625人(厚生省のデータ)。この数字も統計のとり方が徹底していないため、ガンの疾患に起因する心不全をガンによる死亡に加えていなかったりもして、実際には、もっと多くなるはずだという意見もある。また、ガンという疾病は、早期発見によって治癒率も向上しそれほど怖い病気ではないというイメージも一部では出てきている。それでも、死亡率トップであることには、変わりないが。
交通事故での死者は、年間1万人を超え、10万人あたり10人に。単純に比較するのは少し乱暴かもしれないが、数の上だけで考えるなら水道水による発ガン率は、その倍に相当する。
★塩素で危険を察知する
トリハロメタンは塩素によって必然的に生まれてしまう。しかし、私たちの目は、塩素を見ることができない。ただ残留塩素濃度は簡単に知ることができる。
そのことによって、トリハロメタンの量を知ることはできないが、塩素自体に対する危険をある程度察知することができるし、塩素濃度の濃い水を飲むと、体内の有機物と化合し体内でトリハロメタンをつくってしまう可能性もあるかもしれない。
薬局で塩素濃度をはかるオルトトリジン″という試薬も入手できる。また左のようなパックテストも市販されている。右の写真は、左のセットを使い板橋区で試してみたところ。0.5ppm以上の濃度を示している。
未来をも脅かす水 -強い変異原性物質『MX』には無防備-
トリハロメタンについては、規制されたこともあり、かなり詳しくわかってきた。しかし 水道水中の有機塩素化合物については、まだまだ判らないことの方が多い。それでも徐々に解明されつつある。そのひとつが『MX』(ミュータントX)、強い変異原性物質だ。
★塩素は、水道水中に強い変異原性物質をつくる
アメリカの研究によると、水道原水中には、400種類を超える有機化合物が含まれており、そのうち325種類は水道水中にも存在し、44種類が発ガン性物質、またはその疑いのある物質だという。そして、塩素処理によって、水道水中に強い変異原性物質が生成されることもわかっている。
“変異原性物質”とは、遺伝子(DNA)に突然変異を起こさせて、その障害を次の世代にまでも伝えてしまう、つまり遺伝毒性を与える物質のこと。
「生物の細胞は、機能上、生殖細胞と体細胞に分けられますが、生殖細胞の遺伝子に変異を受けた場合は、遺伝毒性として現れるんです。この変異は、損傷をうけた部位や程度に応じて、さまざまな障害を招きますし、その変異を受けた遺伝形質は、ずっと子ども孫と受けつがれてしまうわけです」と讃岐田講師が説明してくれた。一方体細胞が変異を受けた場合、ひとつの細胞が受けた程度は、圧倒的多数の正常細胞の影にかくれて、ほとんど影響が出てこないという。ところが例外がある。体細胞のガン遺伝子にこの変異原性物質がシュートした場合である。たったひとつの細胞がガン化しただけで、そこからガンの無限の増殖が始まるのである。
そして、もうひとつの大きな問題がある。“催奇形性”である。これは、遺伝子損傷によるものでなく、受精後の発生過程障害をこうむる場合である。水道水中に催奇形性物質が見つかったという報告はいまのところないが、変異原性物質が私たちの身体に影響を与えるシステムと似ているので要注意である。発生過程が正常に進行するためには、適切な時期に、適切な情報がDNAから読みとられて、問題なくタンパク質合成が行われなければならない。この情報を読みとる段階か、翻訳の段階で何かの物質によって攻撃を受けると、正常な発生を阻害され、催奇形性として現れてしまうという。サリドマイド禍などがその典型である。現在、先天的な疾患をもった子どもたちが増加しているが、その原因はまったく判明していない。環境の悪化全般をその原因に挙げることもあるが、水がまったく無関係であるとは言い切れないだろう。
そして、最近水道水中の強い変異原性物質『MX』の正体が突きとめられた。その構造は、前ページに載せたが、これも有機塩素化合物である。この『MX』を突きとめた東大工学部助手の鈴木規之氏に話を伺った。「MXは、いまのところ発ガン性があるという調査はありませんが、変異原性は非常に強い。変異原性の強い物質として知られているAF−2(1974年まで豆腐やソーセージの保存・殺菌科として使われていた物質。染色体異常を誘発し、また発ガン性も認められた。豆腐一丁あたり6mg含有されていたとすると、それだけで2億4千万のサルモネラ菌を変異させてしまう)に匹敵するくらいの強さがあると思われます。水道水にはほんのわずかですが(水1?中に10億分の何gの単位)、これによって水道水中の変異原性全体の10〜15%は説明できると思います」とのことだ。ただし、このMXに対する私たちの防御法は、まだよく判らない。
私たちはこうして、絶えず危険に晒されている。私たちの子どもの子どもも。
★トリハロメタン対策
・ 煮沸する
トリハロメタンは、煮沸することによって除去することができる。上のグラフを見てもらうと分かるとおり約20分間煮沸するとかなりの量が揮発する。問題は、沸騰するまでトリハロメタンが増加するという点。温度が高くなるとトリハロメタンが生成しやすくなるので要注意だ。そして沸騰するときはフタをとって沸かさないと、トリハロメタンは逃げ場を失うので、高濃度のものを飲んでしまうことになる。
・ 部分的に凍らせて
水は、摂氏0度で凍りはじめる。氷をつくるときに、水が純粋な部分ほど凍りやすいという性質を利用し、冷蔵庫で7割ほど凍ったところで取り出して、凍りきれなかった水を捨てる。大量の水を浄化することはできないが、かなり有効である。もちろん塩素もほぼとり去ることができるし、変異原性物質の除去にも効果が期待できる。8割以上のトリハロメタンを除去できたというデータもある。
・ 入浴前によくかきまぜる
プールもそうだが、お風呂などはヤカンなどとは比べものにならないほどの水を使う。当然トリハロメタンの量も多い。ましてや高温では濃度が高くなり、また変異原性物質の揮発量も増える。入浴前には、よくかき回して、お湯の中のトリハロメタンを飛ばしてから、入浴したい。また、揮発を考えて換気扇を回しながらか、窓を大きく開けてよくかき混ぜるようにしたいもの。とくにさら湯は入念に。
おいしさと安全を求めて智恵と経験に学ぶ
★水にこだわり奥秩父の水源を歩く
東京・西新宿は十二社においしいと評判の中華料理屋がある。昼も夜も多くのファンで賑わうこの店は「れすとらん白竜」。オーナーは村井信吾さんという。常連のひとりである漫画家の藤子不二雄さんも絶賛するそのおいしさの秘訣は、村井さんの研究熱心さに負うところが大きいようだ。村井さんはまず、水にこだわる。料理に使う水はすべて、オーナー自らが奥秩父の源流の湧き水を汲んできたものだ。村井さんはこの3年間、毎週欠かさず奥秩父に通いおいしい水を探して歩く、まさに水の探求家である。我々スタッフも同行してその模様を取材させていただいた。
東京から車で関越自動車道、国道299号線から、140号線を漁り約4時間。秩父市のさらに奥にある荒川村に、車は分け入って行く。「水というのは生きてるんですね。だからいつも同じ沢でおいしい水がとれるとは限りません」という村井さんは、目をつけた沢をいくつか試飲して歩く。「ほら飲んでごらんなさい。かすかに甘味のするおいしい水です」と言われて口に含むと、何とも喉ごしの柔らかいほのかな甘味が舌と喉に広がった。うまい。確かにうまい水だ。「水にも旬があるんです。意外に思われるかもしれませんが、夏が一番水がおいしくなります」と話しながら、村井さんは次の沢を目指して渓谷を登って行く。
村井さんはかつて、料理をより一層おいしくするために豚肉の研究をしたことがる。豚の産地を詳しく調べていくと、おいしい豚がとれる産地はみな水がおいしい土地だったという。
「水は人間と社会にとって一番大切なものです」。料理を極めるうちに水の凄さに魅かれていった、という村井さんの水に対するこだわりを感じさせられた一日だった。
★秩父からの地下水が東京に地酒をつくる
その昔、宿場町だった面影が残る北区・岩淵町。その旧岩槻街道沿いに、東京23区内唯一の造り酒屋である小山酒造がある。創業明治11年という歴史をもの語るかのような古い屋敷内は、東京にこんな場所がまだ、と思わせる緑豊かな古き良きたたずまいを残している。
もともと埼玉で造り酒屋をしていた小山酒造の初代が、ここ岩淵町の水に惚れ込み酒造所を造ったのが明治11年。以来110年以上にわたり、手作りで酒を作り続けている。四代目の小山光三さんは酒造りの命ともいえる岩淵町の水ついてこう語る。
「ここ岩淵町の地下には秩父を源流とする浦和水脈の支流が流れています。ミネラルを豊富に含んだ地下水で、毎年春と秋に醸造用の検査なしますが昔から味と水質は変わらない、いい水です」。
なるべく自然な形で酒造りをしたい、という小山酒造はいまだに和釜を使って米を蒸している。京都の伏見などの酒造会社が皆近代的なビルに生まれ変わっているのとは対照的に、戦前に建てられた古い建物の中で伝統的な手法にこだわり続けている。主銘柄は「丸真正宗」で、年間生産量は一升瓶にして30万本と少ないが、丹精込めて造られた淡麗辛口の味わいを持つ東京の地酒として愛飲家は多い。
小山酒造の門の脇に、立て札のかけられた水飲み場がある。地下130mから汲み上げたおいしい水を一口お分けしよう、という気持ちでわざわざ作ったものだ。だが、最近はポリバケツや中にはトラックで大量の水をとっていく人が後をたたないという。地下水を汲み上げる量は通産省から規制されている。せっかくの好意もこのままでは続けられない、と小山さんの表情は曇っていた。東京の水道水がいかにまずいかの裏返しかもしれないが、ミネラルウォーターがタダで手に入るという感覚ならいただけない。常識は守りたいと考えさせられた。
★おいしい豆腐づくりも水がキメ手
大正3年に先代が創業して以来、80年近くにわたり井戸水を使って豆腐を作り続けている「藤屋」は、いまだ下町の風情が色濃く残る上野・桜木にある。昔はほとんどの豆腐屋が井戸水を使っていたが、井戸が枯れたり井戸水が汚れてしまったせいで、いまではすっかり珍しくなってしまったという。水は大豆とともに豆腐作りの命である。豆腐の実に80%が水でできているからだ。
「藤屋」は店のすぐ下から自動ポンプで地下水を吸い上げている。もちろん井戸水だからといって安全ということはない。毎年行われる台東区下谷保健所の水質試験でも、無色透明で無臭、すべての安全基準をクリアしている。カルシウム・マグネシウム分が64mg/且の程よい軟水となっている。もちろん飲んでもおいしい水だ。「藤屋」はこの井戸水をそのまま豆腐と一緒にパッケージして販売している。たっぷりとした水の中に入った絹ごしや
木綿はいかにもおいしそうに見える。「豆腐屋じゃあ豆腐はいつも水の中だ。それだったら水も一緒に売ればいいっで思ったんだ」と江戸っ子らしい歯切れのよさで話してくれた2代目主人の高橋敬さんだが、なかなかどうしてこう見えてもかなりのアイデアマンである。水と一緒に包装するとなると手間やヒマがかかるし、重くなって運ぶのも大変だ。だから普通は誰もやらない。人がイヤがるやらないことだからやってみる価値があったんだと言う。
きっかけは第一次石油ショックの頃にさかのぼる。近所にスーパーができ、客はみな値段の安いスーパーに流れて豆腐が売れなくなった。高橋さんは自分の豆腐の良さをアピールして、何とか巻き返しができないかと考えた。手作りの良さと水の良さ。この2つを誰が見てもわかるようにと考え出したのが、水も一緒にパッケージした豆腐だったのだ。いまでは遠く他県ナンバーの車で買いに来る客がいるほどの人気になっている。「いい材料と腕と気持ちがあれば、いいものができるんだよ」と言う高橋さんの言葉には、職人らしい自信がみなぎっていた。
★安全な水にこだわることは人間として当然の欲求である
福井県の永平寺には「水五訓」という訓えがある。「一、自ら行動して他を動かすものは水なり 二、障碍に遭いて激しその勢力を百倍にするは水なり 三、常に己の進路を求めてやまざるは水なり 四、自らを潔うして他の汚濁を洗い、しかも清濁併せ容るるは水なり 五、洋々として大海を満たし、発しては雲となり雨と変じ、凍っては玲瓏たる氷雪と化ししかもその性を失わざるは水なり」。水の持つポテンシャルはこのように深く強いものであることを改めて知らされる言葉である。
水はまた私たちの“食”に大きく関わっている。普段はあまり意識しない水の大事さも、食べ物を通して見ると形を変えてその重みがよくわかってくる。大自然の恵みである水にもっとこだわっていいと教えてくれる。水は単なH2Oではない。蛇口をひねれば簡単に出てくる水からも、私たちの生活や食を考えるヒントが隠されているのだ。人間の約60%は水でできている。人間の命にかかわる水を、日常の生活のレベルでもう一度考え直していきたいと思えてならない。
また、今回の取材を通じてなるほどと思い知らされたことは、おいしいものは必ず水のおいしい場所にあるということだった。そして水がまずいと言われている東京にも、おいしい地下水や井戸水があると知ったのも収穫のひとつだった。水道水を拒否し、毎週片道4時間かけておいしい水を汲みにいく料理店のオーナーがいることに、水の大切さと魅力を感じさせられた。
水にこだわり、安全な水を求め続ける人たちにエールを送りたい。
★下水処理場のシステムはあまり知らない -生活排水にも十分気をつけたい-
“おいしい水”“安全な水”を求めるムーヴメントによって、厚生省では水質基準の見直し作業に入っている。私たちは、自ら口にするものに対してかなりの注意を払っている。無農薬栽培の野菜を選んだり、ミネラルウォーターを飲んだり…。
ところが、排水に対してはあまりにも無神経だ。一時合成洗剤追放の動きは高揚したが、現在ではかなり下火になっているようである。私たちの生活を考えたとき、かなりいろいろな物も排水口へ流してしまっているのではないだろうか。
そこで、私たちの流した水が、どう処理されて海へと返されているのか三河島処理場にその実際を見る。
三河島処理場は、日本で最も古い下水処理場で1日に70万?の水を処理している。そのシステムは、浄水場とほとんど同じと言っても過言ではない。同処理場には文京区・台東区・荒川区などから下水が自然流下で送られてくる。まず沈砂池から大きなゴミをとるスクリーンを通って第一沈殿池で細かい汚れを沈める。ばっ気槽では、微生物の入った活性汚泥を入れよくかきまぜる。これは下水の中に溶けている汚れを微生物が吸収し、沈みやすい塊にするためだ。それを次の沈殿池で取り除き、上澄みを塩素処理して隅田川に流している。昔と比較して隅田川がきれいになったのは、下水処理場の力に負うところ大である。
「下水は止まることがないので大変です。汚れを取り除くのが仕事ですが、ディスポーザー(生ゴミなどを粉砕して排水と一緒に流してしまう装置)には対応できる機能がありませんので、使わないで欲しいですね」と場長の井上一氏からの要望。
自己防衛としての家庭用浄水器の使い方
★水のマイナス部分を取り除くのが浄水器
家庭用浄水器は、現在数百万台の普及があるとも言われている。とくにカルキ臭が気になり、お茶やコーヒーがまずいということで浄水器を取りつけたという家庭が多い。またトリハロメタンに対する危機意識も聞かれる。ただ誤解して欲しくない点は、浄水器はミネラル分を付加するのではなく、塩素やサビなど、私たちが“水がまずい”と感じる成分を取り除くものなのである。
そして、現在トリハロメタンを100%除去する浄水器はない。また使っているうちに必ず浄化能力は低下する。どんな浄水器にもフィルターカートリッジの取り替え時期が書かれているが、それを正確に守らなければ逆に汚れた水を飲むことになってしまう。例えば、塩素除去能力がなくなってしまった浄水器のフィルターに沢山の有機物がひっかかっているとき、塩素の含まれている水道水によってより多くのトリハロメタンを生成してしまうことも考えられる。
またフィルターを通過した水には塩素が含まれていないので、殺菌力がない。雑菌が入った場合繁殖が早いので保存にはあまり向いていない。よく使用前に捨て水をするよう説明書に書かれているがそれはフィルターから蛇口までの間に溜まっている浄水に雑菌が含まれていた場合を考慮してのことだ。
したがって浄水器を使う場合は、塩素などを除去する性能を十分に活かすため必ずフィルターの交換を期限内に行いたい。また、32頁で見たように、お湯の方がトリハロメタンの生成が多くなる。お湯も使えるものの方が、当然のことながら便利であるし、安全だ。家庭用浄水器は非常に種類も多いが、選ぶ際にはぜひ以上の点に気を配りたいものである。



