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9. 蘇れ土

   ・土が環境をつくっている
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   ・土は地球そのもの
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   ・化学物質が土を死の淵へ
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   ・農薬の疑問への解答を
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   ・微生物農法で土の復権
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   ・完全に根づいた微生物農法
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   ・健康な土はここが違う
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甦れ土

取材・文/原プロジェクト

いま私たちの足元で大地が悲鳴をあげている
ところがその悲鳴を、私たちの耳は知覚することができない
なにしろ大地の存在すら忘れかけてしまっているのだから
思い出そう、土の軟らかさ、土の香り、そして土の温もり
泥んこになって遊んだ記憶とともにつぶやく“甦れ土”

土が環境をつくっている

空気が、水がなくなったらと考えて不安になる人がいたとしても、
土がなくなったらと思う人はまずいないでしょう。
瀬戸物やアルミニウムは士から生まれ、私たちの生活は士と切り離すことはできません。
しかし忘れてはいませんか。士は植物を育て、水を浄化、保水し気温の調節をも行う、
生命をはぐくむための大切な環境のひとつだということを。

★スポンジのような森林の土 自然のダムが私たちの水を守る

「母なる大地」という、あまりにも有名な言葉。大地、それは土であり、土は地球上のさまざまなものの生みの親。その土を、コンクリートに置き換えて生活しているのがまぎれもない現代社会です。

でも、母なる大地を本当にコンクリートに置き換えてよいのでしょうか。土なしで営まれる人々の暮らしなど、あり得はしないはず。

「土がなぜ大切なのか。第1の理由は森林の土による水源涵養機能です。つまり森林は土がスポンジのように軟らかくなっていて、そこに水をためることができます。降った雨はゆっくりと地中を移動しながら浄化され、渓流や河川に注ぎやがてダムへ。森林の土はまさに自然のダムであり、これを人工物ですべて補うことは明らかに不可能なことです。森林は土を雨による侵食から守り、また樹木の根が土砂崩れなどを防ぐ、大切な役割をしているのです」(農林省林野庁研究普及課・佐藤英章氏)

もし、森林をコンクリートで覆ってしまったら…。雨は一時的にとどまるところを失い、一気に流れ出てダムはたちまちのうちにあふれ、洪水を起こすでしょう。逆に日照りになると、森林のような保水機能がないためあっという間にかんばつになって飢餓を招きます。日本は世界平均の約2倍の降水量があり、国土の70%が森林、という環境がいかに恵まれているかを私たちはどの程度認識しているのでしょうか。“湯水のように”水を使えるのも森林のおかげです。

地球上がコンクリートだらけになれば、水資源の問題にとどまらず、まず気温の変化が大きくなり寒暖の差が激しくなります。砂漠化や温暖化は地球規模の問題ですが、左右するのは土の持つ温度調節機能。水を含む土では、地面に到達した太陽エネルギーの大半が土の中の水の蒸発で奪われ、そのため真夏日でも急激な地温の上昇を防ぐことができます。都会は別名、コンクリートジャングル。蒸発による熟エネルギーの消費がないのですから、連日の熱帯夜もいたしかたありません。

しかし土の代わりにコンクリートでは、植物が当然消滅してしまいます。土の中には無数の微生物がいて、それが生み出す養分を根から吸収することにより植物が生育します。大切な食糧の確保という意味においても、土のもつ影響力は図り知れず多大です。また、植物は知っての通り、二酸化炭素を吸収して酸素を吐き出し、それにより汚れた空気をきれいにする浄化能力を持っています。緑の多いところほど空気が新鮮であるのは植物によるところが大きく、サラリーマンが土のある家に安らぎを求めるのも当然のことでしょう。

こうしたことからも、土が水、空気にかかわる大切な役割を果たしていることは明らかです。しかし、土と最も関連の深い森林は、地球全体では驚くべき勢いで失われているといいます。

★生きている土 土が死ねば生物は昔、消滅する

「日本は持続的経営という森林を減らさない技術が浸透していますが、開発途上国である熱帯地方が今、森林が失われている現状にあります。私たちはこうした国から木材を輸入していますが、同時にわれわれ先進国の持つ農業技術を、積極的に提供することが急務であると言えます」(前出の佐藤氏)

唯一国際機関の本部が日本にあるというITTO(国際熱帯木材機構)では、2000年までに先進国の技術提供による補足的経営がなされている熟帯地からのみ、木材を輸入しようという提言を推進しています。

土は環境を形づくるひとつの大きな要素であることを、私たちは再確認しなければなりません。土壌は単に岩石の静的な集合体ではなく、微生物が存在し、生命力を持っています。“土は生きている”のです。土と生物が互いに影響し合った長い歴史があってはじめて、今の土の姿があるのです。

幼いころ最初の自然の遊び道具は土でした。それがいつの日からか、汚いものとして認識されるようになってしまいました。親が子に土をどう教えてきたか、どう教えるべきなのかを改めて考え直したいものです。

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土は地球そのもの

地球の一部分の岩は、温度差(昼間と夜、夏と冬)や水などの作用によって砕けます。
また岩石中の成分が水に溶けたり、化学反応を起こしたりして、さらに細かな岩の粒になります。でもそれだけでは岩の粒に過ぎません。そこに動物や植物の死骸や微生物が混じってこそ、本物の土になります。土には地球の活動すべてが集約されているのです。

★何百万年もの時間をかけて土はさまざまな表情をあらわす

私たちは“土”という言葉から、一体何を連想するのでしょうか。畑、土壌、農産物……意外に貧弱なのではないでしょうか。地表を覆うわずか数10cmの土が、地球上の生命活動を支えているのですから、もつと豊かなイメージを抱いてもいいのではないでしょうか。

たとえば、森林などを散歩すると、地面の軟らかさに驚かされることがありますし、旅行先で自分の記憶の中の土とまったく違った色の土に出合い、異郷を意識させられることもあります。

一般的に、山地森林の表面は枯葉が堆積していて、そのすぐ下には腐植土があり、黒っぼい色をしています。この部分が私たちの足に軟らかさを伝えてくれます。そればかりではなく、この部分は、小動物、昆虫、キノコ、微生物などの膨大な数の生命をはぐくんでいます。その下は、褐色で大きめの砂を含む土があり、十分に水を蓄える機能を持っています。

山地から少し下ったあたりの土は、私たちの描く土のイメージにフィットしています。色は、酸化鉄が多い地方では赤や黄色になり、粘土分の割合が高く養分が少ないためか、お茶畑や果樹園に利用されているのをよく見かけます。また関東地方の台地の土は黒いのですが、これは火山灰を材料に腐植を多く含む土です。割合軽くサクサクした感じですが、肥料を入れて畑として使われています。

海に近い低地の土は、水田や畑としての利用頻度の高いところです。もっとも都市化が進んだ地域なので、建築物で覆われてしまっているようですが……。この土の色は、鉄分を含むために青っぽい色だったり、褐色だったりします。そして台地の土よりもっとサラサラで、水はけによって灰色になる場合もあります。

このように何百万年もかけて、土は豊かな表情とともに、私たちの生活や生命を支えつづけてきました。そして、その豊かさを創っているのは、太陽であり、空気であり、水であり、岩の成分であるケイ素やアルミニウム、鉄、カルシウムそして有機物と微生物。土はまさに地球の環境そのものなのです。

★土が劣化する砂漠化も人間がつくり出している!?

土の豊かな表情が失われたことのシンボル、“砂漠化”という言葉は一般的になりましたが、私たち日本人にとって“砂漠”があまりにも遠いためか、その実態についてはよく知らされていません。

「砂漠化というのは、本来土地が持っている生産力が減少し、崩壊し、砂漠のようになってしまうことで、既存の砂漠以外にも、その周囲などの半乾燥地帯(年間降水量200〜600mm程度)や、もっと離れた地域でも進行し深刻視されています。農業が壊滅してしまうわけですから。そして、今では世界の各地で普通に見られるほど一般的になってきているんです」と説明してくれたのは、東京大学農学部の松本聰教授。

では、この砂漠化はどうして起こるのでしょうか。
「原因としては、気候と人間活動の2つの要因が考えられます。近年、地球的な規模で水蒸気循環の変動があり、降水量を激変させています。がんばつによって植物が生えなくなると、いままで放牧されなかった土地の草や草の根まで食べさせてしまう。そうしたら不毛地帯になってしまいますね。そして大雨も砂漠化の原因になります。表土を雨が流してしまうからです。他に大規模な農業開発によって塩類障害を招き、砂漠化を促進させてしまうこともあります」(同教授)この砂漠化を防ぐ手段はあるのだろうか。

「今のままだと、有効な方法はありませんね。私たち人間が、どうしたら自然と調和した生活を送れるかということを考えていかないと……。日本でも優良な農地が次々と失われつづけています。農業や土に対する哲学を確立しないと。日本社会全体の危機なんですから」と校本教授は、私たちの土に対する意識の低さを嘆きます。

本誌前号の輸入食品の特集で見たように、わが国は超のつく食糧輸入大国。砂漠化を対岸の火事とせず、足元の土も見つめ直していきたいものです。

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化学物質が土を死の淵へ

土に産まれ、土に返るといいます。動植物は死んで地中に埋められると、
やがて微生物がどんどん分解、養分を作り出し再び生あるものの活力となります。
農薬や化学肥料の大量使用が、この自然法則を左右し土壌のバランスを乱します。
しかしそれは農業生産者にとって、需要が求められる今減少の方向へと導くのは
難しいと言われています。しかしそれではいつまでたても問題は解決しません。

★健康な土のバランスを崩す化学肥料や農薬

土の中にはたくさんの微生物が住み、コーヒースプーン1杯の土にいるバクテリアの数は、1千万から1億。そして人にもさまざまな性格があるように、共生するものもあれば敵対するものもあり、それによりバランスが保たれています。

これらの微生物によって、土壌の持つ本来の力が発揮され、その健康状態は私たちの食糧確保に最も大きな影響力を持っています。農業経営は、地力の維持、増進など土の健康にかかわるさまざまな問題と直面し、試行錯誤を繰り返しては進んできました。その歴史の主なものは、化学肥料や農薬による土壌の健康破壊。そこでは“一定の農業生産を上げるためには不可欠なものであり、人口増加による需要がある以上切り離して考えるわけにはいかない”という論理が大手を振ってまかり通っていました。いま多くの人たちが、健康か安定供給かという二者択一の論理展開に疑問を抱いています。

「なぜ、土壌が大事なのか。水耕栽培のように土を使わず植物を育てることは可能になっています。しかし問題は野菜ではない。主食である米や麦の穀物が土なしで作れるかどうかです。莫大な費用を要し、60億の人間を支えることはまず不可能。コストとエネルギーを余分に使わないためにはやはり土壌しかないんです。だから大事なのだということを理解してほしいのです」(東京農工大助教授・岡崎正規氏)

★人が土を死に追いやるなら救う努力もすべきではないか

土の持つ健康なバランス状態を崩したのは人。それは今に始まったことではなく、世界最古と言われるメソポタミア文も同様の例です。“肥沃な三日月”と呼ばれたこの場所は、太陽と水と作物に恵まれ多くの人間が暮らしていました。しかし今は褐色の土に覆われた砂漠。その背景には人口の増加、集中がありました。間もなくして食糧不足となり、対策として1年中小麦を作り難を切り抜けようとしました。しかし夏は高温と乾燥の日々。激しい水の蒸発が呼んだものは、土の中にたくさんの塩類がたまる塩類集積でした。これにより小麦は枯れ、肥沃の土地は砂漠化してしまったといわれています。

「土地のもつ生産力以上の収奪、負荷をかけることは土壌をだめにします。そしてだめになったら二度と戻らない。外国人はこれまでの例から、水や空気よりも土壌の環境における重要性を認識しています。われわれ日本人は一般にその逆。石油と同じように使いきったら元には戻らない、資源のひとつであることをもっと認識してもらいたい」(前出の岡崎氏)

化学肥料への依存率が高くなっているからこそ、その改善策に対する有効な解答を出さなければなりません。東京及び都内のいくつかの市では、汚泥類やゴミ等の有機性廃棄物の堆肥化事業を進め、廃棄物減量との一石二鳥を目指している実例があります。そのひとつ、都市ゴミの場合は、消費者でもある市民がきちんと分別さえすれば、堆肥材料として十分な利用の可能性があるといわれ、一人ひとりの意識と協力が確実な力となることはいうまでもありません。

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農薬の疑問への解答を

農薬は有害な微生物を駆除するのみでなく、有用な微生物も駆除するのは当然です。
そしてそれは土の健康のみならず人間の健康に直接かかわってくるというのに、
なぜ、生産体系は変わらないのか―――安全性より効率性。
その責任は生産者、消費者両方にあります。

★新鮮さ、安全性よりも市場は外見を重視している

店先やスーパーに並ぶ無農薬野菜。でもそのスペースが、他の野菜たちを圧倒するほどの割合を占めることはまずないでしょう。漠然と農薬はいけない、だからそうでないものをといっても、無農薬栽培には大変な手間がかかり、現状のままでは生産能力に限界があります。いち農家が、いち消費者が、個人のレベルで解決できる問題ではありません。

野菜の粗生産額と土壌消毒剤生産出荷量は、1970年代前半までは非常に接近した変化を示しますが、70年代後半以降は野菜生産の変動に対して土壌消毒剤生産量の伸び率はやや鈍化しています。しかし畑面積が著しく減少しているので、畑面積当たりの投下量は実際は倍増しているのです。大消費都市東京の台所的存在である関東六県の土壌は、消毒剤づけになっているといっても過言ではありません。

消費者が求めている農産物は見栄えのよさだけでなく安全で質の優れたものなのに、市場を中心とする流通体系の中では、外見だけが価値判断を左右し、安全面に対する考慮は、どうしても二の次にされています。

農薬も化学肥料も、使わずに済めばそれにこしたことはないのは当然のこと。そのための研究は絶え間なくつづけられているし、常に基準の濃度は設定されています。もちろん基準があることと守られているかどうかは別問題。日本での使用が禁止されている農薬も、輸入品には含有されている場合が往々にあるということは紛れもない真実です(本誌2号を参照してください)。

★必要なものだけに効く農薬の研究もつづけられているが…

「現在の農業環境では、薬剤をゼロにするのは難しいことです。虫や草と戦いつづけ、大変な過程を軽減してきた事実もあり、その全部を捨てては主たる穀物生産が成り立ちません。今求められているのは残留しない、あるものだけに効く、つまり選択性のあるもの。このような方向性で努力が重ねられています」(前出の岡崎氏)

もちろんこうした研究者の努力を否定するつもりはありませんが、ある生産者は、「出荷するものには農薬を使うが、自分のところで食べるものには農薬は使わない」とハッキリと言っています。ということは、農薬を使わなくても、農産物の生産は可能なのです。

だから実際に産地直送による販売を通して消費者の要求を肌で感じ、安全で質のよいものを生産、供給しようという動きも活発に行われはじめました。大切なのは生産者と消費者の相互理解です。消費者が自分の健康を考えるなら、生産者側の真の健康も考え、安全で効率的な活力を持つ土壌づくりの実践を応援していきたいと本誌は思います。

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微生物農法で土の復権

地中での微生物の働きについては、まだまだ未知の部分のほうが多いと言われています。しかし、微生物が作物の育生を助けたり、ある種の病気を予防したりする働きを行って
いることは明確になっています。そこでEM菌という微生物群を使った農法を提唱し、
着実に成果をあげている琉球大学農学部の比嘉照夫教授にお話を伺いました。

★EM菌とは一体どんな微生物なのだろうか

比嘉教授の提唱するEM菌とは“自然界の肥沃な土壌中に生息し、作物の生産に役立つ微生物群”のことです。英語のEffective Micro-organisms(有効微生物群)の頭文字を取ったものです。「したがって、最近の遺伝子組み換えなどのバイオテクノロジーによってつくりだした微生物ではなく、自然界に存在する微生物たちの力を有効に使おうということなのです。化学肥料や農薬によって本来持っている土壌の力が失われてしまった。それを回復させて、活力のある作物を育てようということなのです」

かつて連作障害を研究していた同教授。土壌伝染病の病原菌が生き残らないように農薬を使い、化学肥料を多用していても一向に解決されないところから、土自体の農薬を使わざるを得ない構造こそ改善しなければならないと感じたそうです。

そこで土壌を腐敗型から発酵型にするための微生物の応用を究めました。

たとえば味噌などは、大豆のたんばく質を各種アミノ酸に換えていますし、酒や酢なども微生物による発酵の恩恵を十分に受けています。

EM菌は、80種以上の微生物群によって構成されています。主要なものは、

◎光合成細菌
太陽の光と熟、作物の根の分泌物などを利用して、ビタミンや作物の養分を合成する働きを持つ。この菌によって他の有効微生物群も増加する。

◎放線菌
有害なカビ細菌類を駆逐する。

◎酵母菌
作物の根の分泌物や有機物を利用し、ビタミンや生理活性物質を作り、植物の細胞分裂を促進したり、他の有効微生物群の活性化を図る。

◎乳酸菌
乳酸菌を生成し、強力な殺菌力をもつ。未熟な有機物を発酵させ、作物に有効な養分にかえる。種子の発芽を促進する。

といったところです。これらの菌が地中でお互いに作用しあって、より生産性の高い土壌をつくりあげるわけです。

★自然哲学に沿ったEM菌活用と働き

前述したようにEM菌は、自然に存在する菌を選んで有効に働けるよう培養したものですから、安全そのものです(自然に存在すること自体が即、安全を意味するわけではありませんが)。

しかし、有益な微生物だけを集めて使うのは、自然に反するような印象も受けます。

「そこが自然主義者のよく陥る誤りですね。何を指して自然と言うのか、その概念がはっきりしないところで自然という言葉を使ってしまう。それだったら発酵というテクニックは使えないし、ヨーグルトも食べられなくなってしまう。お米にしても人間が長い時間かかって品種改良を繰り返して、今の稲になったのです。自然というのは、絶えず変化していますから、自然というのを静的にとらえてしまうと、むしろそれは自然ではなくなってしまうのですね」

日々何千もの種が滅び、同じくらいの新しい種が生まれるという複雑な微生物の世界を見つめている同教授らしい言葉です。私たちは、あまりにも安易に自然を理解(本当は誤解かも知れません)してしまっているようです。

「まず、自然というのは、自己矛盾に陥らないことです。今日さまざまな環境問題というのか、汚染が問題になっていますね。ゴミ問題にしても、人間自らが自分の首を絞めているようなものです。ですからこれは自然じゃない。でも生ゴミなどはEM菌で処理すれば1〜2週間で肥料として使える。こうしたマイナス要因をプラスに変えていくことこそ自然的行為だと思えます。すでにいくつかの自治体でそうした動きが出始めています」

微生物というまさにミクロな世界から環境全体を見つめる比嘉教授の視点には鋭いものがあります。さらに、そうした視点こそがEM菌を生んだと言えるのでしょう。

「それから大切なことは、こうしたマイナス要因をパワーに変えていき、それを自己増殖させていくことです。もちろんだからと言って汚染物質を出しつづけていいということではありませんが」

いまEM菌を使った農業は、地球的な規模で増殖を始めています。東南アジアの各国では、国の施策として取り入れられています。

「農業というのは、太陽エネルギーと二酸化炭素、水やチッソという素材を使い、土の力を利用して生命の糧をつくる。ということは、二酸化炭素を資源化することでもあります。EM菌が広がれば、二酸化炭素の問題も解決しますよ」

大胆な発言も現実味をもって聞こえます。

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完全に根づいた微生物農法

比嘉教授の地元沖縄では、EM菌を使った農業が、実験段階を過ぎ、
完全に実用化されています。沖縄ならではの、マンゴーやハパイヤの畑、
他の作物にももちろん使われています。そして、養豚場では臭気対策として
豚舎に散布したり、飼料に混ぜられたり、水の浄化のためにも用いられています。
その実践を見てみましょう。

★農薬をやめて省力化と増収を両立

「よく見学に来られた方が、“ホルモン剤を使っているんじゃないか”と言うんです。でもそんなことは決してありません」

まるでブドウの房のように実ったミニトマトを前に、長嶺さんの奥さんが話してくれました。

長嶺さんのお宅では、20年ほど前にご主人が、農薬散布中に急性中毒になり、救急病院へ担ぎ込まれたという苦い経験を持っています。それでも、しばらくは農薬を使わざるを得なかったといいます。 が、6年前に比嘉教授の公開講座でEM菌を知り、すぐとり入れたそうです。

「土が軟らかくなったので、一切耕さずに栽培ができますから、農作業がずっと楽になりました。もちろん農薬の恐怖からも逃れられましたし、インゲンやキュウリも以前よりずっと取れるようになりました。いいことずくめで、働くことが本当に楽しくなったんです」

現在長嶺さんの家にトラクターと農薬はありませんでした。

★豚舎の悪臭を緩和し経営危機を乗り越えた

養豚業につきものの悪臭。悪臭に対しては、その元となる物質に規制基準値が設けられています。「ですから、悪臭の苦情があると、県や市に呼び出されて注意を受けるんです。それがたび重なりましてね。近所への迷惑も考えて、養豚を止めようかと思ったこともあります」と、糸満市で養豚業を営む當間さん。

その昔間さんの危機を救ったのもEM菌です。普間さんは、夏で週にl回ほどEM菌(商品名は“MSK”)を散布し、また飼料や水にも混ぜて使っているそうです。それで大幅に悪臭が緩和されました。においを数量化するのは難しいことですが、普間さんの感じでは、以前の4分の1ほどに軽減されたとか。実際に豚舎に入ってみても、アンモニア特有の鼻にツンとくる刺激は感じません。

「ほら、におわないでしょう」と當間さんの手にした“出来たての糞”からも確かに悪臭はしません。豚の腸内でEM菌が、有毒菌の活動を抑えたり、ガスを分解したり活躍した結果のようです。當間さんは、この糞を堆肥にして豚舎の隣でニラを栽培するという一石二鳥の農業を展開中です。

★蘭の花を鮮やかに そして長持ちさせるために

沖縄海洋博の跡地にある国営沖縄記念公園。その中のひとつの施設である“熱帯ドリームセンター”に展示してある各種蘭の花々にもEM菌は使われています。

理由は、花の色が鮮やかになるということと、塩類障害に強くなるからです。同様の理由で、渇ォ縄蘭研でも使用されていました。

「なんといっても農薬を使わなくて済むのが安心できていいですね。植物の根が活性化しているらしく、蘭に限らず非常にしっかりした感じに育つんです。いまマンゴーで実験していますが、毎年結実しています。通常マンゴーは隔年の結実と言われているんですけどね」と語ってくれたのは、同社の安里勝之さん。EM菌の効果は、土壌と植物がともにしなやかになるというのが、適切な表現なのかもしれません。台風で倒された木が自力で立ち上がったという話も教えてくれました。

「ただ、使い方にまだ難しいところがあるかもしれませんね。効果は徐々に現れ、ある点で急激に上昇します。その点を見つけるまでが大変かなという気がします。土は場所によって違いますから」

★具志川市立図書館ではEM菌が水を浄化している

EM菌の有機物分解能力を水の浄化に用い、中水利用によって、大幅に経費も節減しているのが具志川市立図書館。

「当館の浄化槽は、し尿ばかりでなく、雑排水も処理する合併浄化槽です。そこへEM菌を投入してみたんです。処理水は雨水をためたものと一緒にして、再びトイレ用に使ったり、植栽への灌水にも使っていますがまったく問題はありません。もちろん濁りやにおいも感じません。また長時間のばっ気も必要なく、電気代も8分の1ぐらいで済んでいると思います」と知念信正館長。年間120万円の予算を組んだ水道代も20分の1の6万円で済んだそうです。そして何よりも汚泥もほとんどないので引き抜き作業の必要もなくなったといいます。「電気の節約は、石油の節約ですから。EM菌は環境問題のひとつの解決法です」

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健康な土はここが違う!    

私たちの日常生活の中で、わずかにですが土の復権がみられるようになりました。
野菜を買うときにも泥つきのほうを選んだり、プランターや家庭菜園で
野菜を育てたり……。

そんなとき、土の良し悪しを簡単に見分ける方法があるのでしょうか。あったら
ぜひ役立てたいと思います。土の専門家松尾嘉郎さん(農学博士)にお話を伺いました。

★土を見分けるためにはまず土に触れてみることから

土の良し悪しを判断するには、私たちのさまざまな感覚を使います。重金属や農薬の問題があるのでなめてみるのは避けるにしても、他の感覚を総動員してください。

@ 土を握ってその弾力を確かめる

家庭菜園の土を握ってみてください。粘土のように弾力のないもの、砂のようにギシギシとした感じ、土によっていろいろと違います。
土の中の空気、水分、有機物などのバランスのとれたものが良い土とされています。そ の弾力は、ちょうどパンを握ったほどのものがベスト。もっとも最近では、パンも軟らかくなり過ぎていますので、フランスパンの中身くらいの弾力といったらいいでしょうか。

A 香りを嗅いでみましょう

当然のことながら土も含まれているものによって香りが異なります。一般的に嫌なにおいのするものは悪い土。微生物のバランスが崩れ、湿った土が好きな菌だけが活動していると、腐った卵のようなドブのようなにおいがします。また別の種類の菌だけが活動すると、カビ臭いにおいになったりもします。つまり、土の中での微生物のバランスが崩れると、私たち人間にとっては不快なにおいを発するのです。
良い土のにおいというのは、干し草プラス甘い香り。レーズンのようなにおいがします。
チャンスがあったら、いろいろな場所の土の香りを嗅いで、訓練しておくと楽しいかもしれませんし、きっと役立ちます。

B 野菜に付いている土もチェック

自分で野菜をつくったり、草花を育てたりしない人でも、人参や大根などの根菜類は泥つきのものを買ったらその土をチェックしてみましょう。
まずその土を指にとり、色を見ます。色に関しては地域差があり、それだけで判断するのは困難です。おおざっぱな言い方になりますが、やはり黒いほうが良いとされています。その土を乾かしてみるとよりはっきりします。白っぽくなるようでしたら有機物が少ない土です。それからもう一点、指先をこすり合わせて粘り気をみてください。あまりサラサラしているものより、粘性が少しあるくらいなものが良いでしょう。

以上私たちが簡単にできる土の判別方法を紹介しましたが、ひとつだけで判断するのではなく、五感を総動員して総合的にみてほしいと思います。きっと土もそれを望んでいるはずです。

★土も老化します だから若返りの努力を

いくら健康で良い土とはいえ、紫外線に当たり、雨に打たれ、気温差に泣かされれば不健康になり老化します。地中の微生物が活発に動けば、それだけ餌も必要です。

家庭のプランターなどで野菜をつくっている方で、水や肥料はよくやるけど、まったく耕さない方がいます。健康な土を維持するためには、天地返しという方法で上と下の土を混ぜるのです。下部に集まっていたミネラル分や老化していない土が上にきます。そのことだけでも地中の微生物が活性化し、土は再び健康をとり戻します。そして、微生物の喜ぶ有機物の肥料を与えてください。ただし水も肥料も与えすぎるのは考えものです。すべて多ければいいというものではありません。特に水のやり過ぎには注意しましょう。

★活動を抑えておくのも土と植物をいたわる知恵

植物を育てるうえで、よくある失敗のひとつが、旅行などで留守にする場合。1週間ほどで帰ってみたら、せっかくの植物がすっかりしおれてしまっていたという経験を、多くの方が持っていると思われます。

特にこれからの暑い季節に向かい、植物はどんどん成長しようとするし、地中の微生物たちも元気に動き回ります。

こんな季節に旅行に出掛ける場合、トレイなどに水を入れその中に植木鉢をセットします。そして必ず暗いところに置いてください。ベランダなど出しっ放しにするのは絶対に禁物。暗いところに置けば、植物は光合成ができませんので成長が抑えられます。こうしておけば夏でも1週間位は大丈夫。せっかく成長したがっているところですが、枯らしてしまうよりはいいですね。これも土と植物への愛情です。

★EM菌を使い生ゴミをすばやく肥料に

編集部では、比嘉教授にいただいたEM菌を使って、肥料づくりにチャレンジ。

@ 生ゴミの水分を切って、その中にEM菌を入れて室温で保存(保存にあたっては、写真 の容器をラップで密封しました)。

A 3日後、生ゴミの表面に白いカビのようなものが繁殖し始めました。このとき、若干生ゴミ特有の嫌なにおいがしましたが、それほど強くはありません。

B 2週間後には、すっかりカビ状の菌で覆われ、においはまったく気になりません。この状態で肥料として使っても構いません。

これなら生ゴミも有効利用できそうです。

★EM菌はすでに商品化されている

比嘉教授の主張するEM菌を使った生ゴミ処理剤(米ヌカとEM菌を混ぜたもの)は、沖縄のサンバイオという会社によって商品化されています。

容器の中で、処理菌をかけられた生ゴミは7〜10日で発酵し、液体肥料として下の蛇口から取り出せます。この液体、余った分を流し台から流せば、配管の浄化に。残った固形物も肥料となり、都市のアパートでも安心です。

よく環境保護の本には“生ゴミは堆肥として使いましょう”と書かれていますが、都市の中で堆肥をつくるのは、あまりにも非現実的でした。ところが、この商品によって、それがいとも簡単に可能となったのです。

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