緑がだんだん遠くなる
取材・文/原プロジェクト
立ち止まる交差点
街路樹が四方に伸びていることに
流れる人々は安心するのだろうか
喫茶店に並べられた観葉植物
気がつけば周囲は緑色にあふれている
それは緑の大切さを私たちが知っているから
かつて緑を失うことで文明は滅びた
でも何か違う
緑色で飾れば飾るほど
緑がだんだん遠くなる
日本は、世界でトップの熱帯木材の輸入国 私たちは、地球の滅亡に手を貸している!?
この地球に栄えたかつての文明は、ほとんどが緑を失うことで滅亡していったとされています。現在熱帯林の減少が問題になっているのは、そうした危機意識が働いて、地球上の文明すべてが滅びてしまうことへさまざまな人が警告を発しているからです。
ところが、国土の7割もが森林で覆われているわが国では、そうした危機意識は見られません。ましてや距離的に遠い熱帯林のことなど対岸の火事のようです。でも私たちの生活は、上の図が示すように、熱帯林の恩恵なしには考えられません。
さて、その熱帯林ですが、現在その面積は約17億1500万ha(地表の10%)で、年間およそ1700万haが消失していると言われています。消失の原因については、さまざまなことが考えられます。そのなかでもやはり木材貿易のための伐採が大きな要因。健全な森林の管理・育成による林業をつくる以前に一時的な収益のみを追求してしまった結果です。輸入国が悪い、輸出する側も憩いということでなく、熱帯林もまた今日の市場経済のなかに位置しているということなのです。
このままでは、21世紀を迎える以前に、熱帯林の9割が消えるだろうという予測もあり
ます。そのとき私たちの生活は?
意外に知られていない森林の役割 -緑は紙や木材のためにあるのではない-
リサイクル運動の高まりとともに、私たちが日常使っている紙が木から作られていることは誰もが知っています。でも森林は、生活材以外にも環境浄化に大きな力を発揮しているのです。
★地球温暖化を進めてしまう森林破壊
植物は、光合成によって二酸化炭素を取り込み、酸素を出しています。このことは小学校で習いましたが、熱帯林が地球の大気の中にある二酸化炭素の40%を吸収していることはあまり知られていません。森林破壊は、この機能を大幅に減少させています。それどころか、土の中の落ち葉や動物の死骸の分解が促され、大量の二酸化炭素が放出されてしまいます。
二酸化炭素は、太陽の熟を良く吸収するので、地球温暖化の主要な原因と指摘されています。地球が温かくなることがなぜ問題なのでしょうか。まず、地球の生態系が崩れてしまうおそれがあります。地球の気温は、何千年もかけて微妙に変化してきました。ところがたった数十年の間にほんの1度上昇しただけで、生態系が適応できないのです。温かくなったら、枯れてしまう植物、生きられない魚がいることはご存知だと思います。
温かくなれば、農業などには逆にいいと考える人がいるかもしれませんが、雨の降り方が変化したり、いままで考えられなかった病害虫が発生してしまうのではないかと心配されます。
そして、さらに、水不足が深刻化するという予測もあります。降水量の減少に加えて水の蒸発量も増加し、水需要の増える夏など、とてもまかないきれないといいます。現在でも水不足が言われたりするのですから。その他にも海水面の上昇、水温の上昇で湖沼や河川の富栄養化の促進、光化学スモッグの多発などが心配されています。
それだからこそ、世界中で二酸化炭素の排出を抑えようと真剣に議論されているのです。
こうして見ると、熱帯林の破壊によって私たちの生活が良くなることはないのです。確かに熱帯林までの距離は違いのですが、地球環境の中で生活しているということを考えれば、とても身近な問題なのです。
★森林は自然の水循環のキーポイント
森林の持つ物理的な機能のひとつとしてもっとも大きなものは、水分保持です。木々の根は、地中に空気を入れ、雨水が通れるようにしてくれます。そのせいで地表を流れる水の量は減少し、同時に土が流されることも少なくなるわけです。もちろん、根は、土をその場に固定しておく役割も担います。そして、枝や葉が落ち、豪雨のショックから土壌を守ってくれます。
森林は、土にゆっくりと水分を浸透させるだけでなく、森林自身も水分を吸収しています。ですから、森林がしっかりしているところでは、洪水になりにくいし、干ばつにもなりにくいのです。
森林は水質の維持にも役立っています。森林の林床は天然の浄水器なのです。ホンジュラスのラ・ティグラ国立公園の密林は、首都の飲料水の約40%を供給していました。ラ・ティグラに代わる新たな水源を確保するためのプロジェクトに、85年だけで約1億ドルも費やされたといいます。
森林の恩恵を金額で表すことは難しいことです。しかし、現在自然資源そのものの値段をある方法で捉えていこうとする動きがあります。森林を伐採して何か災害が起きれば、その復旧のために莫大なお金を使わなければなりません。そのためのお金が自然資源が本来、所有しているはずのものというわけなのです。
★熟帯林は、無限の可能性を持っている
熱帯林の減少が危倶されているもうひとつの理由は、動植物の種の宝庫でもあるからです。パイナップルやバナナ、ほとんどの柑きつ類、コーヒー、ヤマノイモ、カカオ……熱帯林原産の作物は数えきれません。これらの原種は、既存の品種の改良にとって欠くことのできないものです。
また熱帯林の植物からは、たくさんの医薬品もつくられているのです。マラリアの治療に使われるキニーネ(ペルーのキナの木から採れる)、血圧降下剤のレセルピン(東南アジアのインドジャボクから)、避妊薬ピルの原点ともいうべきダイオスジニン(メキシコなどのヤマノイモから)などが有名です。またエイズの治療薬になるのではないかと研究されている植物もあります。抗ガン性を持つ植物もすでに2000種以上見つかっています。このように人命を救う薬品として利用されているのは、有効だとされている植物のうちまだ1%以下です。
医薬品ばかりでなく、工業の材料も熱帯林は産出しています。ゴム、精油、食用油、タンニン、各種香料や染料、これも数えあげたらきりがありません。
このように、熱帯林は私たちの生活にとって欠くことのできないたくさんのものを産出してくれています。それは、明らかに木材よりも多いのです。そして、本来ならこれからも私たちにとって有益な何かをプレゼントしてくれるはずなのです。何しろ熱帯林について私たち人間は、まだまだ知らないことの方が多いのですから。
ところが現状のままでは、せっかくの可能性を摘みとつてしまいそうです。その意味で、熱帯林は、私たちの近くからどんどん遠のいていっているのです。
私たちにもできる森林保護 -緑の声が呼んでいる-
緑の大切さについて、また緑の危機について知ってしまったら、何とか行動したい。でも一人で海外へ植林には行けない。何をしたらいいのか困ってしまう人は、とりあえず現在活躍中の保護団体をのぞいてみましょう。
★WWF(World Wide Fund for Nature)
WWF(World Wide Fund for Nature)は全世界で500万人近くの人に支持されている世界最大の民間自然保護団体。23カ国の各国委員会と5カ国の公式協力団体によって構成されています。WWF Japan(財団法人世界自然保護基金日本委員会は、71年に各国委員会のひとつとして設立されました。
『3つの使命』として、@生物の多様性を守るA自然資源の持続的利用の推進B環境汚染と資源エネルギーの浪費の防止、を掲げて、非常に幅広い自然保護活動を展開しています。
石垣島のサンゴ礁調査を含む南西諸島の保護プロジェクト、ザトウクジラの調査など、W
WF Japan独自の自然保護事業も行っています。現在、創立20周年のキャンペーンを、『南西諸島、熱帯林、野生生物の商取引、ウエットランド(湿地)』の4テーマで展開中。
所在地/〒105東京都港区芝3-1-14日本生命赤羽橋ビル6F
03・3796・1241
会員制度 年会費5千円から各種あり(一般の場合)。
★NACS-J
挙本自然保護協会(ナックス・ジャパン)は、49年、尾瀬ケ原がダムの底に沈められようとしたとき、尾瀬の自然を守るためにつくられた『尾瀬保存期成同盟』をベースに、51年任意団体『日本自然保護協会』60年に財団法人へと発展してきました。
主な活動は、白神山地ブナ林生体系調査、石垣島白保さんご礁海域調査などの調査研究
活動。森林生態系保護地域設定に関する調査・提言、長良川河口堰建設問題等河川生態系保護問題への取り組みなどの保護活動。そして月刊の会報『自然保護』の発行、NACS-J
自然観察指導員養成の講習会の開催といった教育普及活動の3つのジャンル。
会員特典もある自然と親しむ宿″ネイチャー・イン″制度やEARTH展といったイベントなども多彩でユニークな団体です。
所在地/〒105東京都港区虎ノ門2-8-1 虎ノ門電気ビル4F
03・3503・4896
会員制度 入会金千円、年会費4千円(個人)から。
★JATAN
熱帯林行動ネットワーク(JATAN)は、87年1月の設立。以来日本の熱帯林破壊の責
任を追及し続けています。
「日本の大手総合商社は、道路建設や機材供給を含め、生産国の低迷事業を援助しています。また東南アジア諸国に対する日本政府の開発援助は道路や港湾などの大規模なインフラ(社会的生産基盤)や近視眼的な産業プロジェクトへの資金提供にかたよりすぎ、結果的に熱帯林の破壊を助長しています。例えばマレーシアのサラワクのリンバン地域では、日本の国際協力事業団(JICA)が、伊藤忠商事に超低利融資で完成させた伐採道路によって森林破壊が急速に進みました。日本は熱帯林の破壊に大きな責任を負っているのです」と同会は主張します。
所在地/〒150東京都渋谷区鴬谷町7-1渋谷マンション801号
03・3770・6308
会員制度 年会費5千円(一般会員)他。
★熱帯森林保護団体
この熱帯森林保護団体は、アマゾンの熱帯雨林と先住民の織りなす豊かな生態系を守る目的で89年に発足したレインフォレスト財団未部はニューヨーク)の日本支部。
89年5月にアマゾン・カヤポ族リーダーのラオー二とロック歌手スティングがアマゾンの危機を訴えるワールドツアーを行った際に受け入れ機関となり実質的な活動を開始しています。熱帯雨林のみならず、インディオが1万年の歳月のなかで培ってきた文化等を守るために、18部族からなるインディオが管理するシングー地域が昨年確定されましたが、その地域をあらゆる破壊から守るのが主な活動。ただし、とかく『環境保護活動』というのは難しく捉えられがちなのを反省し、“明るく、楽しく、わかりやすく”をモットーに活動しています。
所在地/〒150東京都渋谷区猿楽町2-7竹久ビル402号
03・3477・258
会員制度 年会費5千円(一般)他。
★距ホの地球防衛基金
今年、設立10周年を迎えた同基金は、海外での植林活動を中心に行ってきました。それは同基金の会長である大石武一氏(初代環境庁長官)が、パンフレットに書いているように『今となっては、地球の持続可能性を取り戻すために空気や森林やその他の資源を大切にして、地球環境に配慮した生活様式を作り出すことが最も必要となっています。これは理屈ではなく、いかに早く実行するかが問題であります』理屈ではなく行動をという主張から導かれたものです。
同基金が行った植林事業は、85年以来、助成を含めて10カ国弱。国内でも尾瀬の保護を
中心に、環境問題の啓蒙、支援に積極的にかかわっています。現在の会員数は、法人・ジュニアを含めて、約1500名。
所在地/〒101東京都千代田区神田駿河台1-2馬事畜産会館
03・3233・3376
会員制度 年会費3千円(個人会員)の他法人会員。
★サヘルの会
アフリカのサハラ砂漠の南端に位置しているサヘル地域では、南に広がって行く砂漠に生活を脅かされているといいます。サヘル地域の砂漠化を防止して、そこに住む人々が安定した生活ができるように協力することを目的に87年1月、同会は設立されました。そして88年2月から、マリ共和国で植林と農業を中心に活動。同会のスタッフは、地域の中で地域の人と同じ生活をして、その生活を学びながら一緒にできる砂漠化防止の方法を探っています。防風、防砂のために植林帯を造ったり、菜園指導、井戸掘りなどを行っていますが、その地域で手に入る資材を活用して、地域に根づいた緑化が展開できるようにしています。そこで生きる人々の生活が安定することが、砂漠化防止につながるからです。左の写真は、植林の成功例、1年後の同じ場所です。
所在地/〒151東京都渋谷区西原3-21-4
03・3460・3912
会員制度 年会費5千円
やがて緑の消える日が来る?!
世界最大の熱帯林アマゾンは、“地球の肺”とも呼ばれ、地球の酸素の3分の1を供給していると言われています。そのアマゾンの熱帯林もあと150年ほどで消滅してしまうと言われています。もっともこの予測は長い方で、数十年と見ている人もいます。
こうしたことは、地球上のいたるところで起こっていますが、私たちにはなかなか実感できません。それは、東南アジアの人々から「外国から輸入しないで、自分たちの木を使えばいい」と言われるように、まだまだ緑の多い国だからです。
それでも、私たちは緑がだんだん少なくなっていると思っています。それだから、部屋に観葉植物を飾り、ベランダで小さな草花を育てているのです。
緑が失くなってしまえば、酸素が供給されなくなるので、生物は生きていくことができません。もちろん現在のわが国で酸素不足が起こっているというようなことはありませんが、そこへのプロセスは確実に進行中です。
前に見たように、緑は酸素や木材や紙を供給するだけでなく、さまざまな機能を持っています。ですから、緑が完全に消失する以前に異常気象が起こり、干ばつと洪水が繰り返され、地球は死の星になります。アスファルト砂漠も本当の砂漠になる日が来るかもしれません。



