子どもを育てるお母さんのための雑誌マナメッセホームへ

コンテンツ
   
  
1995年総集編目次ヘ戻る

  19. 土の中で生命はめぐる


微生物の世界をのぞく
土の中で生命はめぐる 物質の大循環で生命はつながっている


取材・文/HARA Project Co.,Inc

★もしも微生物がいなくなってしまったら・・・

 バクテリアやカビなどの微生物について、私たちはあまりいいイメージをもっていません。病原菌や、食べ物を腐らせてしまう微生物なんかいなければいいのに、と思う人もいるでしょう。

 では、微生物がまったくいなくなったら、どうなるのでしょう。まず微生物をエサにしている小さな動物たちが絶滅します。小さな動物が絶滅すれば、それをエサにしていた大きめの動物も生きていくことができません。そして、なによりも、植物が育たなくなります。それは、土の中で微生物が、植物が育つのに必要な養分をつくりだしているからです。

 植物が育たなければ、草食動物ばかりか、私たち人間を含めた晴乳類をはじめ、どの生物も生きていけません。つまり、地球上の食物連鎖などの生命の大循環にとって、微生物は欠くことのできない存在で、いなくなれば、すべての生命は死を迎えることになってしまうのです。だからこそ、微生物を殺してしまう農薬は恐ろしいのです。

 微生物のことなどまったく知らないという人も、実は日常的に微生物のお世話になっています。お酢やお酒、味噌、醤油、チーズ、ヨーグルトなどの食品は微生物の活躍なしにはつくることができません。

 また、私たちの体の中には、約百種類10兆個もの微生物が住んでいて(ほとんどは腸内にいます)、乳酸や酢酸などをつくっています。そのおかげで腸の働きが活発になり、消化吸収がうまくいっているのです。

 もちろん、人間にとって都合のいい働きをする微生物ばかりではありませんが微生物のバランスがとれていれば、それで体調がおかしくなるようなことは起きません。それよりも、人間の体にとて有害な菌などを退治してくれる微生物もいます。

 微生物は、私たちの生命にとってほんとうに大切なもの。なのに私たちは彼らのことを あまりにも知らなすぎます。さあ、微生物の世界をのぞいてみませんか。

 私たちは、微生物を肉眼で見ることができないためか、その働きをよく知ろうとはしない。だから、微生物の働きについては分かってないことのほうが多いといわれる。
しかし一方では酵母菌など一部の微生物は、食文化の創造者として大切にされている。(写真は上から酵母菌、放線菌、紅色イオウ菌<光合成細菌>写真/泣Tン興産業

 ミミズは土を耕していく。耕された土の中では微生物も活発に動けるので植物もよく育つ。私たちはその恩恵にあずかっている。

 野菜の残留農薬で、私たちの健康や生命が脅かされています。でも農薬は、それらの危険ばかりでなく土の中の小さな生命を殺してしまい、地球全体の生命の連鎖を断ち切ってしまうのです。
士の中のたくさんの生命によって私たちは生かされている・・・
そのことを、忘れていませんか?

 私たち人間は、さまざまなものを食べて生きている。その食べ物もいろいろな生命同士が影響しあって生まれてきたもの。これらの循環のなかのひとつがなくなることは大きな生命の循環そのものの死を招くことになる。

★微生物の活動が地球を支える。

46億年前に誕生した地球。そして、約40億年ほど前に最初の生命体が生まれたと考えられています。その最初の生命体こそが、微生物。そこから、ある種の微生物は進化して、高等植物や動物になっていきました。

★緑の地球は微生物がつくり、微生物が守っている

 地球の大気の中には酸素がありますが、この酸素も地球が誕生したときにはありませんでした。酸素を最初につくったのは、光合成をする微生物でした。酸素のおかげで出来たオゾン層に守られて、生命は海から陸へ上がることが可能になりました。こうした微生物が生まれなければ、今でも地球は海と岩だけの星だったでしょう。

 植物が陸にのぼったのは、約4億年ほど前のことです。もちろん微生物も陸へあがり、土の中で植物の成長を支えました。その営みは現在でも脈々と受け継がれているのです。

 では、この微生物はどのくらいいるのでしょうか。実は正確なところは分かっていないのです。地球上には1000万種以上いるという専門家もいます。また、肥沃な畑10aの中にいる微生物は、合計で約700kgになるという報告もあります。予想以上の多さです。

★土の中をのぞいてみれば、小さな生命が……

 これらの多種多様な微生物は、土の中でどんなふうに生活しているのでしょうか。その前に、土の中にはどんな生き物が住んでいるのか考えてみてください。下のイラストのように、微生物以外の小さな虫や動物も生きています。土の中でもいろいろな生命が互いに影響しあって、生命の循環が行われていますが、その中心になっているのが微生物です。

★土の中で微生物は生き、生態系のバランスは保たれる

 土の中には、微生物ばかりでなく、モグラなどの小動物も暮らしています。モグラはミミズやクモなどの虫を食べて成長します。そのモグラもミミズもいずれは死にます。すると、その死体を食べるためにバクテリアやカビが集まってきます。次に、これらの微生物をめがけてトビムシがやってきます。トビムシを食べにダニが、ダニを食べにクモが、そしてまたモグラが……。こうして、土の中では生命の循環が維持されているのです。

 この循環のなかで、酸素がない状態のときは、嫌気性菌と呼ばれる微生物が活躍し、また逆のときには好気性菌が仕事を始めるというように、微生物同士でもバランスをとっています。

 さて、こうした生態のバランスが崩れてしまうと、植物に養分が届けられなくなってしまったり、それまで活動が抑えられていた病原菌が活躍し始めたり、土は死んだ状態になってしまうのです。

★個性豊かなキャラクター集団=土の中の住人たち

 微生物とはどういう種類の生き物かというと、まず酵母などのバクテリア、植物の祖先である藻類、カビ、そしてアメーバーなどの原生動物までを含めたものを指します。

 これらの微生物も生物である以上、活動のためのエネルギーや、自分の身体をつくる栄養が必要です。私たち人間とまったく同じですね。私たちが、元をただせば微生物から進化したことの証拠なのかもしれません。

 嫌気性や好気性なども、微生物のひとつのキャラクターですが、微生物は栄養の摂り入れ方によっていろいろな個性に分かれます。

★無機物、有機物、光をエネルギーにする多様な生態

 微生物のなかでももっとも古い歴史を持っているのが、無機物(炭素を含まない物質/簡単な炭素化合物/鉄のように一種類の元素でできている物質)をエネルギーとする微生物たちです。硝化菌などが代表ですが、あまり多くはいません。けれどこの微生物は、土の中でアンモニアをエネルギー源にして硝酸をつくりだします。硝酸は農作物の健全な発育に欠かせない物質ですから、彼らが元気に活躍できるように願わずにはいられません。  それから、光をエネルギー源にしているのが光合成細菌です。これらの微生物は光合成により酸素をつくりだしたり、植物の大事な養分になる窒素も取り込んでいます。

 そして、土の中の微生物の中心的存在が、有機物(糖やタンパク質など。無機物以外の化合物のこと)を摂取して活動するものたちです。

 このなかには、マメ科植物の根と共生している根粒菌などがあります。根粒菌は、根から糖などをもらったお返しに、タンパク質の元となる窒素化合物を根に与えています。

 多様な微生物たちが活発に活動していれば、植物は元気に育ち、私たちに豊かな農作物を与えてくれるのです。

◎野菜も高品質で収穫増に!

 微生物を有効に活かすと、野菜もビタミンが豊富で、しかも収穫が増加します。下のグラフは、琉球大学の比嘉照夫教授の有効微生物群(植物にとって有益な微生物群)を使った畑と使わない畑でのニンジンの比較です。ビタミンAで1.5倍、収穫量では2.2倍の差がでています。この点に関して、「有効微生物群は、抗酸化物質やアミノ酸、糖類などを合成し、植物の成育を促進させます。とくに抗酸化物質のある土壌では、根の活性が強化され、栄養吸収能力も高まり、しかもアミノ酸などはほかの物質に変化しないで、そのまま根から吸収され、すぐにタンパク質に変化します。それが、高品質で収穫増につながっていると思われます。」と比嘉教授。

 酵母菌やコウジカビなどの微生物は、ビタミンをつくりだすから、その影響がでていると考えられる。また病気に強いのも、微生物のおかげだ。
(デー夕=「微生物の農業利用と環境保全」農文協刊より)
(注)抗酸化物質=過剰になると遺伝子を傷つけたり、不飽和脂肪酸と結びついて老化物質をつくる活性酸素の害を抑制、修復する物質。

★いい土は、しっかりしていて軽い

 いい土というのは、微生物が活発に活動している土のことです。空気や水分が適度に含まれ、パンみたいな弾力があります。

 粘土のようにベタベタした感じではなく、砂のようにサラサラでもありません。また、いい土は干し草やブドウのような甘い香りがほんのりします。
さて、編集部では、微生物が十分に活躍・機能している「自然農法」の土と、農薬と化学肥料を使っている畑の土を入手し、その違いを比べてみました。それぞれをラップにくるんで、食塩水に入れてみた結果がひだりの写真。農薬を使っていた畑の土は沈んでしまいました。

これは、自然農法の畑では微生物が活躍し、土が団粒構造(土の小さな塊)になっていて空間が生まれるので、比重が小さくなっているからです。

 土の中の隙間は、微生物や、水、空気の通り道になります。つまり、さまざまな物質を土の中に取り込むのにとても便利なのです。もちろんこういう状態ならば団粒同士もしっかり結びついているので雨で土が流されてしまうこともありません。いい土はしっかりしていて軽いのです。

★微生物が畑を耕してくれる

 同じく有効徴生物群を使った畑では、畑の土が軟らかくなり、園芸用のポールなどが簡単に1m以上もスルスルと入ってしまいます。これで、植物の根も十分に深く広く張れることが分かるでしょう。どうしてそれほど深くまで軟らかくなるかについて、比嘉教授は、「それは、酸素の苦手な嫌気性菌が大気を避けるために、どんどんと下へ移動していくからです。移動しながらも、いろいろな物質を合成していて、それらの作用によって、土が軟らかくなるのです」と説明します。 微生物の力によって土が軟らかくなるなら、作物をつくる人にとって耕す手間が省けそうです。 実際に、まったく畑を耕さないで(無耕起栽培)、収量を増やしている農家もあります。ということは、微生物に十分活躍してもらえば、大幅にコストを削減し、しかも安全な農作物をつくることが可能になるのです。

 土の中では微生物を含めた生命の循環が行われている。この循環がスムーズに流れている土が、いい土となる。そしてそれこそが、地球が一つの生命体として存続していけることにつながっている。よりよい環境のかぎをにぎっているのが微生物なのだ。

★農薬が、化学物質が、微生物を殺していく

 土の中で豊かな生活を展開しているはずの微生物が、今かなり危機的な状況に陥っています。それは、殺虫剤や除草剤などの農薬が犯人。もともと農薬とは、特定の害虫や病原菌だけを殺すために使われるものですが、あいにくほかの有益な微生物も一緒に殺してしまいます。そうすると、土の中の生態系がくずれ、土は死んだ状態になりますから、作物もうまく育ちません。そこで、養分を補うために化学肥料をどんどん入れることになります。そうするとますます土の力は弱くなり、作物も弱くなり病気になりやすくなります。

 一方、農薬を使い続けると病原菌は耐性をもち、より強い農薬が必要になります。そん な悪循環の中で、生態系が崩れてしまっているのです。だからちょっとした異常気象でも米や野菜が収穫できなくなってしまう、と指摘する専門家はかなりいます。

 現状では、すべての植物が枯れてしまうほどの被害が現れていないためか、また私たち人間に直接の影響が出ていないためか、多くの人は微生物の生態の惨状にわりあい無頓着です。でも、微生物なしには、私たちが生きていけないことを再認識すべきときに来ていることは確かです。

★「原生林5uを破壊するのは殺人罪と同じこと!」

 環境破壊の現状に対して、微生物の大切さを訴える平井孝志さん(微生物的環境技術研究所主幹)の言葉がこれです。「以前中部山岳地帯の原生林1u(深さ15p)の土を調査したチームの報告によると、そこには小動物が360匹、トビムシやダニが280万匹、徴生物群は10兆以上も生息していたそうです。また、良質の畑10aあたりには700kgほどの
微生物がいるといいますが、これを数にすると約7京(1京は1兆の1万倍の単位)です。人間ひとりの細胞の数は約60兆個ですから、原生林5uの破壊は、人間ひとりを殺すことになり、良質の畑10aを潰すのは人間1100人を殺すのに等しい細胞を消滅させているのです」

 平井さんは、人間が生態系の連鎖を切断していることへの反省を促します。そして、この連鎖を修復するためには、微生物に働いてもらう以外にないとも言います。

★微生物の働きに注目して環境を守る試みが……

 平井さんは、実際に微生物を使って日本国内はもとより、海外でも土壌改良や水質浄化に取り組んでいます。平井さんは、また、「地球の自然のことでしたら、地球がお造りになったものを使わせていただければ、必ずうまくいくんです。ですから、『微生物を私が使っている』のではなく、『微生物に活動してもらっている』だけなのです。そのために、ごみでも動物の糞でも何でも、十分に熟成させ土に近い状態にしてから土に返す、それだけです」と、微生物が地球の摂理にそって活動したとき、環境はおのずと修復されると説明してくれました。

 そして、微生物がごく自然に働くことができれば、ダイオキシンさえも分解してくれるだろうと言います。「具体的には、微生物が活躍している有機物100tくらいの中に、難分解性の農薬など500kgほどを入れます。最初はかなり微生物も死んでしまうでしょうが、プラスミド(微生物の細胞内にある染色体DNAとは別の遺伝物質)の働きで、8カ月もあれば、分解能力をもつ微生物が誕生するはずです」
生態系のなかで欠くことのできない微生物。だからこそ、ちゃんと微生物が生態系の中に位置づけられるようにしていけば、地球を、本来進む方向へ導いていってくれるのでしょう。

 本当に微生物は大切です。

◎枯れかかった松が、3カ月で元気に・・

 平井さんの微生物群を使って植物の元気を取り戻した実例が下の写真。「これは、あるゴルフ場の松だったのですが、ある大学の先生が松の木に薬を注射したりしても松枯れが治らないので頼まれましてね。原因はマツノガイセンチュウか何かだったと思うのですが。それで例によってミネラルも含ませた堆肥を十分に熟成させ土に近い状態にしたものを根元に入れました。そしたら100日ほどで新しい芽が出てきたんです」と平井さん。多種多様な徴生物群の活動によって植物自身が持っている治癒力が活性化したためなのでしょう。 平井さんの研究所では、農薬を使わずに、こうしたかたちで植物の管理も行っています。

平井孝志(微生物的環境技術研究所主幹)
生態学的循環の軌道上で消長する物質の生産と、その廃棄物、つまり、農、林、水産、畜産などにかかわる飼肥料、無農薬栽培などの実践技術を研究開発し実践中。

[上に戻る]

トータス株式会社 コピーライト