・油は脂肪酸で性質が変わる ・魚のα−リノレン酸系を ・これからの油のとり方 ・油の食べ方○×△ |
取材・文/川崎由紀子 成人病を予防したりダイエットのために油のとり方に気をつけるのは、もう常識。ところが今まで正しいと患っていた油のとり方に関する“常識が研究が進むにつれて変わってきています。健康な食生活のためにはどんな油のとり方をするのが理想的なのか暴新情報をお届けします。 ×今までの常識 植物油は動物性脂肪よりヘルシー 健康のためには動物性脂肪を減らして、植物油をとったほうがいい……。こんな考え方がかなり浸透しています。実際パンを食べるときにはバターではなくマーガリンをぬるようにしたり、肉類の脂身は敬遠するけれども植物油を使ったドレッシングがつきもののサラダにはヘルシーなイメージを持っている人が多いのではないでしょうか。 これまで「動物性脂肪はコレステロールを増やす効果があるのに対し、植物油はコレステロールを減らす効果がある」といわれてきました。ところが油の研究が進むにつれて、油の性質や体に与える影響は動物性脂肪、植物油という単純な分類では説明しきれなくなってきたのです。 動物性脂肪が成人病の大きな危険因子とはいえない 左の表は摂取する油の種類による乳ガンの発生率を調べたものですが、植物油のサフラワー油やサフラワーマーガリンのほうが、動物性脂肪のバターより乳ガンの発生率が高くなっています。また「動脈硬化を起こし、ひいては成人病の原因になるといわれた動物性脂肪と食物に含まれるコレステロールは、脳梗塞や心筋梗塞が少ないイヌイットとデンマーク人の脂肪のとり方を比較したダイヤバーグ博士らの研究によって、大きな危険因子ではないと考えられるようになっています」(名古屋市立大学薬学部教授・日本脂質栄養学会会長 奥山治美さん) そこで最近では脂肪酸(成分)によって、油を分類するのが一般的になってきました。前述の奥山さんは、「動物性脂肪といっても海中にすむもの、地上にすむものでは性質が違いますし、同じ植物油でも体内での作用や性質はさまざまです」と前置きし、次の分類法を示しています。 @飽和脂肪酸・一価不飽和脂肪酸系列(エネルギー源、体の細胞構成成分となります)Aリノール酸系列(成長などに必要な必須脂肪酸です)Bα−リノレン酸系列(脳・神経系に必要な脂肪酸で、成人病予防に役立ちます) 脂肪酸によって体への影響が違う また国立健康・栄養研究所臨床栄養部長の板倉弘重さんも「油は脂肪酸の種類によって体への影響が違うので、自分の健康状態に合わせて油のとり方に注意するのが理想的」とアドバイスします。「例えば飽和脂肪酸のなかでもラードや牛肉の脂身に含まれる長鎖脂肪酸は、リンパ管を通って血液に入るため、血液中の脂肪が増えてしまいます。そのため、もともと血液中に中性脂肪の多い人がこのタイプの油をとり過ぎると、すい臓の血管がつまって急性すい炎になることがあります。また同じ飽和脂肪酸でも牛乳やヤシ油に含まれる短鎖脂肪酸は、消化機能が落ちていたり、脂肪がうまく吸収できない人でも吸収しやすい性質があり、乳幼児の発育には良いエネルギー源となります」(板倉さん) 奥山さんは、「一価不飽和酸脂肪を多く含む高オレイン酸の油は、オリーブ油が大腸ガンを促進する(岐阜大医学部武藤教授)、脳卒中促進因子が含まれている(9月発売予定)といった報告もありますから、とり過ぎないほうがいい」という意見。 同じ高度不飽和脂肪酸についても「酪農国デンマークの人はリノール酸が多く、魚介類を食べるイヌイットはα−リノレン酸が多かったのです。この調査結果をはじめとして、リノール酸系とα−リノレン酸系の油のとり方のバランスが健康に及ぼす影響が注目されています」 ×今までの常識 植物油のリノール酸はヘルシー 植物油のなかでもリノール酸は、コレステロール低下作用があり、ヘルシーな油だといわれてきました。ですからサフラワー(べに花)、ヒマワリ、コーンなどリノール酸系の油が人気を集めたのも、もっともなことなのです。 ところが、リノール酸の効果について疑問視する声があがっているのです。 リノール酸は長期的にはコレステロールを下げない 「リノール酸とほかの脂肪酸のコレステロール低下量を比較した調査では、その差は10%内外しかありません。リノール酸のコレステロール低下作用がきわだっているわけではな またいちかわ栄養セミナーを主宰する市川佳代子さんは、「油の研究はコレステロール値が高く心筋硬塞や動脈硬化などの成人病が心配な欧米で始まりました。その結果リノール酸の多い油は成人病予防に効果があるということで日本にも取り入れられ、ヘルシーなイメージを持たれるようになったのです。でも今から考えるとその頃の日本人は油の摂取量は動・植物油共に少なめでしたから、油の内容は気にしなくてよかった」 それではリノール酸には、実際にどんな性質があるのでしょう。名古屋市立大学薬学部教授・日本脂質栄養学会会長の奥山治美さんは、「リノール酸には一時的にコレステロールを下げる効果はありますが、長期的に調べると効果はなく、かえってリノール酸を多くとることで体内にアラキドン酸が増えて血栓が起きやすくなり、心臓病のリスクは大きくなる」と言います。 そればかりか、リノール酸のとり過ぎが健康にあまりいい影響を及ぼさないという実験結果がほかにもあるのです。 リノール酸がガンを促進する そのひとつが、ガンとの関わりです。食生活の変化によって肺ガンや大腸ガンや乳ガンなど欧米のガンが増えていることは、よく知られています。奥山さんによればマウスを使った動物実験では「飽和脂肪酸のオレイン酸、高度不飽和脂肪酸のα−リノレン酸はガンの発生を促進しないのに対し、同じ高度不飽和脂肪酸でもリノール酸は促進すること。肺ガンのなかでも喫煙との相関関係が少ないといわれる腺ガンについても動物実験の結果、リノール酸が発生を促進することがわかっている」と言います。確かに左ページのグラフを見ても、第2次世界大戦後から急激に脂肪の摂取量、なかでもリノール酸の摂取量が増えていること、そのカーブに呼応するように、’60年以降胃ガンが減少傾向なのに対して、 肺ガン、大腸・直腸ガンが増加していることがわかります。 さらにリノール酸は、アトピー性皮膚炎、花粉症などのアレルギーとの関わりも指摘されています。リノール酸は体内でアラキドン酸に変化しますが、このアラキドン酸がアレルギーの原因になるといわれているのです。「実際にアトピー性皮膚炎の人の血中の脂肪酸を調べてみると、アラキドン酸が多くα−リノレン酸が少ないのです」(奥山さん) 対してα−リノレン酸は、ガンを抑制するほか、「中性脂肪を低下させたり、血液の凝固(血栓)を防ぐ」(板倉さん)といわれているほかアレルギーに対しても効果があるのでは ないかといわれ ています。また頭がよくなると 話題になったDHAやEPAは、α−リノレン酸 を食べると体内 で作られます。 つまり健康の ためにはリノール酸系を控えめにして、α−リノレン酸系を積極的にとったほうが良いといえそうです。奥山さんは「油のとり方は’60年ころの比率が理想的」と言います。 「リノール酸は人間が体内でつくることができない必須脂肪酸ですが、成長期の子どもはともかく大人はすでに体内にリノール酸を3〜4kgは蓄えています。動物性脂肪の多い油や飽和・一価不飽和脂肪酸はやや控えめにする程度に。リノール酸は極力控えて、魚やシソ油に含まれるα−リノレン酸をとりたいものです」 また市川さんも「リノール酸は食品にも含まれていますから、油でリノール酸をとらなくても、必須脂肪酸が不足することにはならないと思います。油は混合油にし、魚をはじめなるべく多種類の油をとるようにしたほうがいいのでは」と言います。 ただアレルギーの場合は、「リノール酸系の油をとらないようにすることで多少症状が軽くなる場合もあるかもしれませんが、ほかのさまざまな要因もあり、油のとり方を変えるだけで治るということではありません」(板倉さん) 油というとそのとり過ぎが肥満や成人病につながるということだけを意識しがちですが、脂肪酸の種類によっては、ガンやアレルギーなどに深くかかわるのです。 1 油の摂取量を減らす 体にいいといわれる油にも、よくないといわれる油にも、おなじ共通点があります。油をとり過ぎるとエネルギーオーバーになって、肥満をはじめさまざまなリスクがあるということです。私たちの三大エネルギー源は、たんばく質、糖質、脂質ですが、「摂取エネルギーに対する油のエネルギーの割合が多くなり過ぎると、糖尿病、高脂血症といった成人病にかかる可能性が大きくなります」(国立健康・栄養研究所臨床栄養部長板倉弘重さん) 運動などで消費するエネルギーより、食事などで摂取するエネルギーが多いと肥満につながることは、よく知られています。ところがたとえ摂取エネルギーを抑えても、脂質のエネルギーの割合が多い場合には、身体にいい影響を与えません。いくら体にいい油といっても油のとり過ぎには注意しなければならないのです。 いちかわ栄養セミナー主宰の、市川佳代子さんは、「栄養学は時代の流れとともに変わってきます。リノール酸がもてはやされた時代もあれば、今のようによくないといわれる時代もあります。でも油の摂取量を全体に控えめにしていれば、どちらにしろ体へのリスクは最小限に抑えられるのでは…」という意見。 実際厚生省の国民栄養調査によると、日本人の脂質の摂取量は、’50年に18gだったものが’91年には58gと、実に3倍以上に増えています。 「スナック菓子、ファーストフード、ケーキ、クッキーなど″目には見えない油″を口にする機会が多いため、油の摂取量が自分で考えているより多くなっているのが、今の食生活の特徴です。食事で揚げ物など油を控えるだけでなく、外食やおやつなどにも気を配る必要があると思います」(市川さん)
2 リノール酸系を減らす 油脂の摂取量を抑えた食生活をしているという場合は、油の種類に注意をしてみましょう。 リノール酸系の油は、ガンやアレルギーなどとの因果関係が懸念される不安な油です。逆にα−リノレン酸系の油は、アレルギーやガンを抑制するといわれる油です。ところが今、日本人はリノール酸系の油の摂取が多い状態になっているのです。「油を減らしましょうというと、ほとんどの人が動物性脂肪を減らしますが、減らさなければいけないのは実はリノール酸系の油なのです」(名古屋市立大学薬学部教授・日本脂質栄養学会会長 奥山治美さん) 奥山さんによれば、リノール酸の一日の必要量は成長期でも1〜2gなのに対し、今の日本人は15gくらいとっている人が多いといいます。 「リノール酸とα−リノレン酸の比率が1対1になるような油のとり方が理想的なのですが、今はリノール酸を多く含む穀類で飼育された牛肉や豚肉、飼料として穀類を食べる養殖魚などはリノール酸がたくさん含まれているので、ふつうに食事をしていると、リノール酸4に対して、α−リノレン酸1という割合になっているのです」(奥山さん) @料理に使う油はリノール酸系のものを避ける、Aα−リノレン酸系を含む魚をたくさん食べるようにする、という2点が油のとり方のコツ。魚以外のα−リノレン酸系の油としては「シソ油」や「エゴマ油」などが注目を集めていますが、ほかの油に比べて値段が高いのが難点。また「熱に弱いので、高温での揚げ物には向きません」 サラダのドレッシングやマヨネーズなど、火を使わない調理法がよさそう。また「α−リノレン酸系は、酸化されやすい不安定な油です。油は酸化すると過酸化脂質をつくり、これが体内に入ると下痢をします。鮮度のよいものを選ぶ、火にかけて長くおいたものは避けるなどの注意が必要です」(板倉さん) 3 油を参加させないたべものをとる 油は長い間空気(酸素)にふれたり、熱を加えてしばらくおくと、過酸化脂質という物質をつくりだし、においが悪くなります。@揚げ物、妙め物など油で調理したものは、できたらすぐ食べる、A刺激臭のする古い油を繰り返し使わない、B過酸化脂質ができやすい魚の干物は、なるべく新鮮なものを選びすぐに食べきる(保存する場合は光にあてないようにし、低温で。空気に触れない真空パックのものでもよい)といった、過酸化物質を多量に取り込まないような注意を。ただ油を一度しか使わずに捨てると地球が汚れます。安全性の目安は「においと味」。普通においしく食べられる状態の油なら、過酸化脂質の心配はありません。 「油が酸化して過酸化脂質ができるのを防ぐためには、抗酸化物質を一緒にとるのも有効です」(板倉さん) 抗酸化物質として代表的なのは、β−カロチン、ビタミンE、ビタミンCなど。魚を焼いて食べるときにはビタミンCが豊富な大根おろしやレモンをたっぷりそえる、献立にはβ−カロチンを含むにんじん、ピーマンなどの緑黄色野菜をとりいれるといった工夫をするといいのです。これらの抗酸化物質は、油に溶ける油溶性のビタミンですから、油と一緒にとることで、体に吸収されやすくなるという効果もあります。 「抗酸化物質を含む食品を一緒にとることは大切です。しかし薬品で手軽にとろうとしますと、ビタミン類(ビタミンC、β−カロチン、ビタミンE)のとり過ぎにもなりかねません。食品でとるようにすれば安心です」(市川さん) ★油の食べ方○×△ ・ケーキクッキー
・(おやつに食べる)スナック菓子
・外食のフライ
・マヨネーズドレッシングの野菜サラダ
・魚のムニエル天ぷら
・魚の干物
・和風魚料理
・お肉の揚げ物
・バターや肉類
・野菜炒め
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