・羊水の宇宙に浮かぶ胎児 ・生命進化35億年の歴史 ・母親の胎内でさまざまな ・胎児の世界は |
取材・文/東嶋和子 生命誕生。それはわずか280日の間に、生命が35億年をかけて綴ってきた歴史のページを一つ一つめくり、再現し、生命が伝え続けてきた記憶を受け継ぐ壮大なドラマだ。35億歳としてこの世に誕生する胎児は、われわれに何を語りかけるのか。 ★羊水の宇宙に浮かぶ胎児 神秘のベールはここまで開かれた 胎児の生命維持装置、胎盤。物質交換や妊娠維持に働く 羊水に浮かぶ胎児は、母親との唯一のつながりであるへその緒によって栄養を受け取り、老廃物を返します。この時、胎児と母親の血液は決して混じり合うことはありません。別々の個体である胎児との拒絶反応を防ぐため、血液を混じえずに物質のやりとりを可能にしているのが、たった280日で役目を終えてしまう胎盤です。 へその緒は3本の血管がらせん状によじれたもので、血管の先は胎盤の内部に入り込み植物の根のように枝分かれして、絨毛とよばれる構造を作っています。ここには子宮動脈を通ってきた母親の血液が勢いよくふき出していて、絨毛が血液の中にどっぷり浸ることになります。広げれば10平方メートル以上になる絨毛の表面が、母親の血液との物質交換やガス交換を行う膜の働きをしています。 胎盤は物質を交換し、有害な物質をシャットアウトするだけでなく、さまざまなホルモンやたんばく質、酵素などを作って、妊娠の維持や出産のタイミングのコントロールもしているらしいといわれます。このほかまだ分からないことも多く、胎児の生命維持にいろいろな機能を発揮する特殊な臓器、胎盤の研究が現在進められています。 受精卵から2000倍の大きさに急成長する胎児 受精後第38週。誕生間近の胎児は、平均すると体重約3300グラム、頭からお尻まで(頂尾長)が約35センチに成長し、お母さんのおなかから旅立つ日を待っています。 受精卵を直径約7センチの野球ボールに例えると、たった280日で、何と東京ドームを覆う屋根に匹敵する大きさにまで急成長をとげたことになります。実に2000倍の急成長 ぶり。これほど著しい成長は出生後にもなく、人生最大の成長期が実は胎児期であるのです。 遺伝子が代々受け継いだ体内時計で胎児は夢を見る 胎児にも眠ったり目覚めたり、体操するリズム、生物時計があります。生物時計は脳の中にあって遺伝子によって受けつがれます。10〜12週ごろから、胎児は母体の動きに合わせる以外に自発的な動きを始めます。「体操の時間」に全身の筋肉を働かせ、体操好きの胎児では7分半も休まず動いたという報告があります。すでに脳とからだが協調して働いている証拠です。妊娠8か月を過ぎると、胎児の脳波に大人の脳波型に似た「レム睡眠」が現れます。レム睡眠とは、夢見がちの浅い眠りの状態で、大きな音に驚いて母体を足で蹴とばす運動の夢や、母親の声に耳を傾ける聴覚の夢を見ているようです。母親が夢を見ている時、胎児も夢見期に入っている、という研究もあります。 胎児を包む羊水は太古の生命のゆりかご 胎児をやさしく包む羊水は、妊娠初期は無色透明の液体。電解質と脂質、各種の酵素、たんぱく質、ホルモンなどが含まれ、血液や海の組成に似ています。私たちの祖先が海を離れる前の太古の時代、海は生物の唯一の安全な住みかでした。母なる海の成分を体内に取り込んで上陸を果たした生命の歴史を、胎児が再現しているのです。 妊娠4か月目ごろの羊水は黄色みがかって比重が大きく、母親の血液の成分に似ています。胎児はこのころから羊水を飲んではし1、2時間に1回おしっこをするようになります。5か月日からは羊水の量が増え始め、7か月日に700ミリリットルになった後は次第に減って出産前に250ミリリットルになります。色は白みがかって弱アルカリ性。胎児はおしっこを羊水に出しては飲み、その量は1日計500ミリリットルになっていますがこれは誕生直後に飲むミルクの量と同じです。 羊水には胎児の皮膚の細胞やたんばく質も混じっているので、羊水を調べることで胎児の遺伝病や健康状態を知ることもできます 天文学的な確率の選択を超えて卵子と精子が出会う 胎児のもととなるのは卵子と精子。母親と父親の生殖細胞一つずつが出会って受精し、胎児へと成長していくのですが、それまでには天文学的数字にのぼる生殖細胞たちのし烈な闘いが繰り広げられています。 卵子と精子のもととなる「始原生殖細胞」は、まだ胎児の姿かたちもはっきりしない受精後3週目に、将来は腸のl部となる壁に現れてきます。受精後5週目に数百の始原生殖細胞がここから、いまだ完成していない生殖原器へ向かってl週間におよぶ体内大移動の旅をします。生殖器が完成し、そこが男性生殖器なら始原生殖細胞はやがて精子に、女性生殖器なら卵子へと分化します。 精子は、胎児の時に始原生殖細胞が一回分裂したままで過ごし、思春期に分裂を繰り返して完成しますが、卵子は生殖原器に落ち着くとすぐに分裂を始めます。受精後20週目には700万もの卵子予備軍(卵原細胞)が作り出されます。しかし、誕生時には100万、 思春期には40万というように減り 続け、成熟した卵子として排卵されるのは一生で約500個といわれ ます。自らが誕生する以前から選別を繰り返し、残った卵子だけが生命の母体となれるのです。 その卵子に到達できる精子も、一回の射精で放たれる役3億個のうちの一つ。生命の誕生。それをもたらすたった一つずつの精子と卵子の出会いのために、まさに星の数ほどの予備軍が作り出され、消えているのです。 体内にいる時の感情や記憶を抱えて誕生する子供たち 出生時の記憶を、何かの経験や連想をきっかけに話し始めた幼い子供たちや、セラピスト(心理療法士)によって悪夢や頭痛、出産恐怖症などの原因を引き出された大人たちの証言で、胎児が誕生前後の出来事を記憶している事実が明らかになりました。 北米出生前・周産期心理学協会副会長のチェンバレン博士によると、子供たちは、プルーンプルーン」「ボーンボーン」などの音がしていて、「水の中」や「池」にいた、あるいは「泳いで」いた。そして「トンネル」を通って、まぶしくて寒いところに出てきたのだと言います。言葉では聞き出せなくても記憶自体は鮮明で、絵や身ぶりで表現される場合もあります。 胎児の意識はいつごろから芽生えるのでしょうか。4か月以降という説もありますが、一般的には大脳皮質の働きが備わる6か月以降に、感覚を情緒に変えることができ、胎児に自我が芽生えるといわれます。やがて8、9か月ごろには記憶する能力が備わって体験が積み重なり、胎児は複雑な感情や情緒を理解し記憶することができるようになります。 海水・血清・羊水のミネラルバランス ★受精後わずか40日の間に生命進化35億年の歴史が繰り広げられる 35億年の生命記憶を受け継ぐ細胞が、新たな生命を生む 生命が初めて地球上に生まれたのは、原始の海の中でした。生命はやがて地上に広がり、大空へも飛び出しました。最初の生命が誕生して35億年。その形態は変わり続け、膨大な数の種が現れましたが、生命の基本原理は変わることなく受け継がれています。私たち人間もその一つ。35億年の生命記憶が生殖細胞の遺伝子に蓄えられ、一対の細胞の出会いによって、また新しい生命の歴史が始まります。 受精後30時間。最初の変化、第1分裂が起きます。母親と父親の姿かたちや性質を兼ね備えた新しい遺伝情報をもつ細胞が2つ誕生したわけです。この細胞は約10時間に1回分裂を繰り返し、2、4、8と倍々に増えていきます。8細胞期に至ると個々の細胞の境界がぼんやりとしてきて、将来、胎児のからだになる内細胞と、母体の子宮内膜細胞とともに胎盤を作る細胞群とに分かれます。こうして受精卵は約−週間かかって桑実胚から胚盤胞となって子宮にたどりつきます。 280日のドラマは、天文学的数字の確率で幕開けする 胎児は形作りの一週間に、太古の時代の記憶を辿る 子宮に着いた卵はたくさんの数の細胞をもとに、受精から2か月までの「胚子」とよばれる時期に重要な器官のほとんどを作ります。 受精後15日目、胚子は内外二層の細胞集団からなり、爪のような形をしています。やが 受精後30日目。小豆粒くらいの大きさになった胚子は細長い棒状で、ようやく頭部と腹部の区別ができるようになります。首にあたる部分にはl列の裂け目があり、エラが鮮やかに浮かび上がっています。胚子の顔は古代魚類にそっくり、口の上には大脳と鼻の原型がもり上がり始めています。 ドイツのヘツケルは「系統の発生と個体の発生はよく似ている」と言いました。「系統発生」とは、地球上に現れた単細胞生物が多細胞生物になり、やがて魚顆、両生顆、は虫顆、ほ乳頬へと進化した道筋のこと。個体の発生、つまり受精卵が分裂して細胞を増やし、その種にふさわしい形や組織を整えるまでの過程に、生命の記憶ともいうべき系統発生が再現されるというわけです。 32日目、ヒレのような腕が現れ、34日目には上あごが左右離れていて、鼻と口がつながった両生類の面影になります。36日目にはは虫類、そして38日目には目が正面を向き、原 始ほ乳類の顔になります。そして40日目、約1週間をかけた生命記憶への旅は終わりを告 げます。巨大な前頭葉が目鼻に大きくのしかかり、でき始めたまぶたが閉じられたヒトら しい顔つきになるのです。 誕生の過程にプログラムされた細胞の「死」 受精後4週目に入ると心臓が作られ始め、血液の循環が始まります。消化管も発達し始めます。5週目には腕や足になるかたまりが現れ、やがて水かきのようになり、しだいに切れ込みができて5本の指が現れます。 このように発生の過程で細胞は増えながら決まった場所へ移動し、分担に応じて各自の役割を果たしているのですが、ある決まった場所で決まった時間に細胞の一部が死んでいきます。遺伝子に組み込まれた「プログラム細胞死」とか「アポトーシス(細胞自滅)」といわれる現象で、げんこつのようなかたまりから、指の間の部分にあたる細胞が次々と死ぬことで形が作られるわけです。アゲハチョウの羽の形も、最初は丸い緑が、緑の細胞の一部が死んで特有のギサギザができます。死んだ細胞は分断され、周囲の細胞に食べられたりして消滅します。細胞の「死」も、生命の誕生には大切なプロセスなのです。 こうして受精後10週目までには基礎的なからだの構造がすべて完成し、神経系も活動を始めて、性器や手足にふれると反応が現れます。妊娠4か月ごろ、15センチほどに成長した胎児は、口から羊水を出し入れして呼吸運動をするようになり、母親のからだを通じて外界とのやりとりをする準備が整います。 ☆脊椎動物の進化を再現する一週間 ・受精後32日目。
・受精後34日目。
・受精後36日目。
・受精後38日目。
★280日で驚くべき成長をとげる胎児は、母親の胎内でさまざまな環境の影響を受ける 有害物質の第一開門、胎盤。ニコチンや酒はフリーパス 母親と胎児の物質交換を行う胎盤は、胎児にとって有害な物質を通さない「関門」の役 割も果たしています。ところが、近代文明はさまざまな種類の有害物質を生み出しました。こうした物質のすべてを胎盤でブロックするのは不可能です。母親が吸うタバコのニコチンの一部は胎盤を通過し、胎児に誕生後の急性呼吸障害や新生児突然死を起こすことがあります。胎児に十分な酸素が供給されず、脳やからだの細胞に障害が生じるからです。また、胎児は羊水を飲んでいますから、アルコールやニコチンは食欲を減らし、低体重児や未熟児が生まれることが多く、流産も起こしやすいといわれます。タバコの副流煙に含まれる発ガン物質も問題になっています。 薬や化学物質が胎盤を通過して奇形や死をもたらす 放射線(X線、原爆)、薬物を含む化学物質(抗生物質、ホルモンなど)、微生物感染(風疹ウイルス、サイトメガロウイルスなど)、栄養障害、低酸素、温度変化、大気汚染、さらにはストレスによる母体の代謝・内分泌の異常などが、胎児の成長のある時期または全期にわたって作用し、発育の遅れ、機能障害、奇形、そして胎児の死をももたらすことが知られています。 サリドマイドベビーは、妊娠2か月過ぎ(受精後34日目から)で手のもとになるふくらみができ、次第に5本の指に分化し発達する時期に、副作用のない安全性の高い催眠薬とされたサリドマイドを母親が服用したために、胎児の手の成長が止まってしまった例です。 親の体内に蓄積したり染色体異常を起こす薬害 悲惨な薬害はまだあります。ベトナム戦争当時、米軍が空から枯葉剤を大量にまきました。枯葉剤には、強い発ガン性と催奇形性をもち染色体異常も起こす猛毒のダイオキシンが含まれています。その結果、二重体、無脳、小頭、双頭、無眼、単眼などの障害をもつ赤ちゃんが生まれました。日本で治療を受けたべ卜ちゃん、ドクちゃんも被害者です。さらに、父親が枯葉剤にさらされただけで子供たちにダウン症候群などの先天性奇形が高い確率で現れました。水俣病の原因になった有機水銀からも分かるように、化学物質は胎盤を通過するだけではなく、母体内で催奇形性をもつ代謝物質に変わったり、父親や母親の体にたまって重大な影響を及ぼすのです。 脳の神経細胞数は出産時に最大になり、減り続ける 人間の脳の神経細胞は約1000億個。木の枝のような突起(樹状突起)を出してほかの神経細胞と結合し、シナプスという接合部を通して神経興奮を伝える、つまり情報のやりとりをしています。この神経細胞の基礎的な発達は出産と同時に完了し、その数は減少することはあっても決して増えません。 脳には神経細胞のほかに、その3〜5倍におよぶグリア細胞があります。神経細胞の間をぎっしり埋めて脳を支えているグリア細胞は神経細胞や樹状突起を取り囲むように張りつき血管壁に密着して、血液が運んできた栄養素と酸素を神経細胞に与える役目をしています。この時グリア細胞は、脳に有害な物質を通さない「血液脳関門」という関所の働きをしています。 胎児の脳には有害物質を食い止める関所がない 脳を守るグリア細胞は生後1年間に急速に増え、死ぬまで増え続けます。ところが、胎児の脳にはきわめて少ないために、胎盤を通った有害物質が直接入ってしまいます。 大人でも麻薬や覚せい剤、シンナーはフリーパス、アルコールもほぼ無条件で通過します。アルコール依存症の母親の場合、胎児の大脳皮質が健常に発達しないために神経細胞の数が不足したり、視覚・聴覚障害や運動機能障害などが起こることもあります。麻薬、覚せい剤、アルコール、タバコのニコチンはもちろん、さまざまな化学物質や薬が胎児の脳にいとも簡単に入りこんで、時間をかけた精巧な脳の建設作業を邪魔するのです。 ★誕生はヒトとして最初の大切なステップ。胎児の世界は「生命」のあり方そのものを問いかける
ホルモンを調整し力を合わせて出産を乗り切る母と子 妊娠10か月。胎児の生活も266日が過ぎました。胎児は黄体ホルモンを分泌させるプロラクチンというホルモンを多量に分泌し、乳腺に対して母乳の分泌を促します。 胎児からの信号が母体に伝わると、それまで子宮の発育と成長を支配し、胎児を育くむために母体が分泌してきた黄体ホルモンが抑制されます。また、胎児から出るDHASというホルモンと、エストリオールというホルモンが子宮の出口を柔らかくし、出産の準備 280日におよぷ母体内での生活を終え、胎児が子宮に別れを告げる時が来ました。胎児は数時間にわたる強い圧迫に耐え、産道を通り抜けなければなりません。頭や胎盤が圧迫され、へその緒が胎児の首に巻きついたりして、胎児は窒息状態に陥ります。 この時、胎児の体から大量に分泌され、酸素不足から胎児を守るのがストレス・ホルモンです。その量は、大人が心臓発作を起こしてひん死の状態にある時よりも多いのです。 アドレナリンやノルアドレナリン、総称カテコールアミンとよばれるストレス・ホルモンは、本来、大人では闘争や心臓発作などのように生体が危機にひんした時に放出されます。心拍数や心臓から送り出される血液の量を増やし、脳や心臓など生きるのに必要不可欠な器官へ優先的に血液を供給します。大人の場合とは逆に、胎児ではカテコールアミンは心拍数を減らします。 胎児の血液中には、子宮口がわずかしか開いていない出産の初期から、大人が目覚め安静にしている時の5倍以上に相当する濃度のカテコールアミンが含まれていて、無事に誕生した後にも、濃度は2〜3倍に上昇します。通常、カテコールアミンの大量放出は出生後30分がピークで、2時間後には平常の分泌量に戻ります。 胎盤を通じてガス交換をしていた胎児は、生まれた瞬間から自分の肺で呼吸しなければなりません。狭い産道を通るとき、気道や肺などに満たされた羊水が一挙に口や鼻から流れ出ます。同時にカテコールアミンが増加して、新生児の自発呼吸の開始を助けます。酸素欠乏のような悪条件下でも、胎児には生命維持の力が十分備わっているのです。 ホルモン分泌を阻害する管理されたお産 カテコールアミンによって新生児は楽に呼吸できるようになり、生命維持に必要な器官への血流量も増えます。さらに、肝臓のグリコーゲンなどエネルギー源の分解を促進し必要なエネルギーをまかなう一方、体温の低下に反応して分泌される特殊な脂肪組織を分解し、熱を発生させて体温を維持します。出生後数時間の酸素欠乏や栄養不足などの障害にも、新生児は自分の力で十分耐えられるのです。 新生児が、出生後5〜6分は大きく目を見開いて目覚めているのはなぜでしょう。 正常な分娩で生まれた新生児では、出生後1時間以内の血中カテコールアミン濃度は、大人を目覚めさせたり、時には心地よい気分にさせたりする程度です。カテコールアミンの増加は新生児を目覚めさせ、早期の母と子とのきずなを形成する働きをしている、と研究者たちは考えています。 再び経験することのない「数分間の覚せい開眼期」。赤ちゃんは、人生の始まりに驚くべき力で母を父を、そして世界を見つめています。ところが、この記念すべき瞬間は、日本の多くの病院ではおざなりにされています。アメリカでは生まれたままの新生児を母親のおなかの上に乗せて真正面から対面させます。 また、胎児の心拍数を監視する技術の進歩によって、わずかな心拍の変化でも「胎児が窒息状態にある」として帝王切開が行われるようになりましたが、生まれた子の半数以上は窒息状態を示してはいなかったと、スウェーデン・力ロリンスカ研究所のゲルクランツ博士は報告しています。 生命の記憶を運ぶ胎児が、身をもって教えていること 近年、胎児に関する多くのことが分かってきました。胎児の研究が老化の解明につなが るという期待もあります。また、周産期の記憶がその後の人生に影響を与える事実も明ら かになりました。母親の体から外へ放り出された時が人生の始まりなのでなく、新生児は胎児の延長であり、私たち自身も胎児の経験や記憶を引きずっている。そして、35億年の生命の記憶をも引き継いでいることを、胎児は教えています。 「生命記憶と胎内の記憶。それに生まれてからの記憶を重ねていく。胎児は記憶のにない手です」と、愛知工業大学の大島清教授は話します。生命記憶を忘れ、生命に対する敬けんな気持ちを失っている私たちは、日常の生活も、そして妊娠や出産をも自然からほど遠い人工的な方法に頼っています。 大島教授は、「ヒトは3回系統発生を繰り返して、ホモ・ルーデンス(遊ぶヒト)になる」とも言います。器官形成期、そして脳の発達にともない、這う動作から原始歩行を始める までの胎児の時期、最後に出生後、這い這いから2本足で立つまで、ヒトは3度、進化の道をたどってサルから人間になります。人間とは自然の中で手足を使い、咀嚼し、「遊ぶ」生き物。胎児の280日は、そのことを私たちに語りかけています。
|
|||||